「世界」を感じることから、 すべてが始まる。

グローバル・リベラルアーツ学部 教授 興梠 一郎

ブレグジットや新型コロナウイルス
見つめ直される「グローバル化」の本質
いま世界は大きく、そして激しく動いています。たとえば、「グローバル化」という言葉を考えてみましょう。これまでは世界を表現するキーワードでしたが、いまそれが大きく揺らいでいます。米中対立の背景には、グローバル化で工場が中国に移転し、職を失った米国の労働者の不満などがあります。イギリスのEU 離脱の根っ子にあるのは、国境を越えて流入してくる移民によって、自分たちの生活が脅かされているという警戒心です。こうした不安をさらに強めたのが、新型コロナウイルスの「パンデミック」でした。感染が中国から世界に拡大し、パニックを引き起こしています。「グローバル化」とは、いったい何だったのか? いま、私たちはその本質を見つめなおす必要に迫られています。

世界は理屈や
計算だけでは成り立たない
そのためには、ジャンルにこだわらず幅広く学ぶことが大切です。本来、学問は細かい専門領域に分かれていませんでした。世界を理解するには、学際的にアプローチすることが欠かせません。経済学や法学を学ぶにしても、宗教学、哲学、倫理学などの素養があれば、物事を深くとらえることが可能になります。デジタル化する現代社会では、ITの知識も必要です。また、音楽・絵画・演劇・文学は、こころに安らぎをもたらしてくれるでしょう。それがなければ、世界は、殺伐としたものになってしまいます。世界は、理屈や計算だけで成り立っておらず、目に見えない精神の存在もあります。“ 理”に“ 情”がともなわなければ、せっかく苦労して学んだ知識を活かすことはできないのです。

あらゆる知を動員して考える
「リベラルアーツ」とは、受験対策の勉強ではありません。より良く生きていくための「技術(artēs)」です。平和とは何か、しあわせとは何か、働くとは何か…。こうした根本的な問題を探求する場でもあります。そこには、理系と文系の区分けもありません。あらゆる知を動員しなければ、日々直面する複雑な問題に対処できないからです。たとえば、新型コロナウイルスを理解するには、基本的な医学の知識が必要です。平和を考えるには、軍事や国際関係だけではなく、歴史学、心理学、社会学なども学び、人間社会の本質を知ることが求められるでしょう。こうした教養の土台があってこそ、物事を多面的にとらえ、さまざまな問題を解決する力が備わります。それが、リベラルアーツを学ぶ価値です。

リベラルアーツを学ぶ価値
我々の脳は、生涯を通して成長するといわれています。受験が終わって学ぶことをやめてしまえば成長も止まってしまいます。学問は、学者の特権ではありません。万人のものです。身の回りの出来事に疑問を感じたら、あれこれ調べたり、聞いたりして、自分なりの解答を見つける。これが本来の学問だと思います。読書はそのためのものです。学校であれ、職場であれ、自分を取り巻く環境をしっかりと観察し、理解を深め、いかなる困難に直面しようとも、冷静に対処できる。そんな生きるための技術を手にすることができれば、リベラルアーツを学んだ価値があったといえるでしょう。
興梠 一郎(こうろぎ いちろう)
1959年、大分県生まれ。専門は現代中国論。九州大学経済学部卒業後、三菱商事中国チームをへて、カリフォルニア大学バークレー校大学院修士課程修了。東京外国語大学大学院修士課程修了。外務省専門調査員(香港総領事館)、同省国際情報局分析第2課専門分析員、参議院第1特別調査室客員調査員を歴任。主著に『現代中国 グローバル化のなかで』(岩波新書)、『中国激流 13億のゆくえ』(岩波新書)、『中国 巨大国家の底流』(文藝春秋)、『中国 目覚めた民衆 ― 習近平体制と日中関係のゆくえ』(NHK出版)等。気鋭の評論家として多数メディアで活躍中。