芦沢学長鼎談シリーズ:Vol.001「『逆風』下の国際交流」(後編)

2026年4月1日、芦沢真五教授が神田外語大学学長に着任しました。これを記念して、会員制月刊誌『大学マネジメント』で行われた座談会を、本学の特別編集ver.でお届けします。

学生が異文化に触れ、学び、成長する機会を、どう広げていくか。留学費用の高騰などの課題に対し、短期留学、オンラインを組み合わせた学習、国内での国際共修など、多様な選択肢が重要になっています。後編では、日本人学生と留学生がともに学ぶ環境づくりと、国際交流の成果を具体的なデータで社会に伝える必要性を議論します。

2026年3月22日収録 ※対談内容は収録時点のものです。
  • 小林哲夫/教育ジャーナリスト
  • 堀江未来/立命館大学グローバル教養学部長・教授
  • 芦沢真五/神田外語大学学長・教授
  • 豊島美弥子/司会:大学マネジメント編集委員(当時)、関西学院大学国際連携機構事務部長
司会:豊島美弥子/大学マネジメント編集委員(当時)
豊島:日本からの留学生送り出しは厳しい状況が続いています。最大の問題は財政と地政学の二つだと思いますが、現場の実感はいかがですか。
芦沢真五/神田外語大学学長・教授
芦沢:率直に言って打つ手がありません。自治体の方に「150万円ぐらいの予算で留学支援を考えているが、このレベルの奨学金で、高校生や大学生は留学に行ってくれるだろうか」と相談されたことがあります。しかし150万円では足りないばかりか、今はその3倍あっても厳しいだろう思いますね。とくに欧米の英語圏に留学する人を、一定額の費用支援プログラムで増やすのはもはや無理でしょう。

 

私はそれよりも、大学間での協働学習などのチャンスを増やすほうが現実的だと思います。それらの体験を通して語学力や思考力をつけて、奨学金を獲得し、大学院での留学を目指すのもいいでしょう。海外には日本よりもドラスティックな奨学金制度がありますし、能力のある人なら、ほとんどの費用負担が免除されるケースもあります。もし今、私に大学生の子どもがいたとしても、親としてこういう提案をするしかありません。それぐらい、今は経済的に厳しい状況です。

 

こうした中で私たちができるのは、「留学の価値」を地道に説明していくことだけだと思います。留学経験でどんな能力が伸びたか、どんな進路を選ぶことができたか。そうした結果を丁寧にアピールしていくしかないでしょう。
堀江未来/立命館大学グローバル教養学部長・教授
堀江:国内で多文化環境で学んだり、異文化体験を通して成長できる機会を提供していくことがますます重要になりますね。短期間でもいいので、現地にも足を運んでみてほしいです。短期だからといって、得られるものが少ないとは限りません。

 

事前と事後のトレーニングで、留学の効果はさらに高めることができます。現地で学位を取るまでには至らなくても、異文化の中で切磋琢磨し、傷ついたり立ち直ったりしながら、非認知能力を伸ばすことは十分に可能です。
豊島:「留学は期間が長いほど価値がある」といった誤解は根強くありますね。経済的に長期間の滞在が難しくなっている今、短期滞在での学びを見直し、クオリティを高めるのは有効な対策かもしれません。

 

堀江:短期留学では、目的の設定など、プログラムがどれだけ緻密にデザインされているかが大切です。単なる楽しい体験で終わらせず、現地の人とのコミュニケーションや苦悩のプロセスを経て、開眼して帰国できるような経験にしてほしい。今は異文化教育のさまざまな知見があるので、大学側がそれを活用してデザインできたらと思います。

 

神田外語大の学生さんも、期間に関わらず、留学を希望される人が多いのではないですか?

 

芦沢:おっしゃるとおりです。その期待にどう応えていくかは大きな課題でもあり、現在も議論を進めている最中です。例えば本学には非常に多くの提携校があるので、対面やオンラインを交えたブレンディッドラーニングも深められます。また、留学生と日本人学生が一緒に学ぶ「国際共修」も今後のキーワードの一つです。古いタイプの留学だけにとらわれず、あの手この手で学生に機会を提供していきたいですね。インターンやフィールドワークなど、学生の経済的なコストが少ない選択肢や、日本にいながらにして学べるメニューを増やしていくことは必須です。
小林哲夫/教育ジャーナリスト
小林:絶対に留学したいと考えている人は別にして、「なんとなく海外に興味がある」程度の人なら、そうしたメニューがどれぐらい揃っているかで進学先を選ぶでしょう。大学が選択肢を増やすことは大切だと思います

 

これも僕たちメディアの反省点ですが、ついつい「今の若者は内向き」などと書いてしまうのですよね。確かにその傾向はありますが、どれだけインターネットが便利になろうと、現地の空気を肌で感じられるのは留学だけです。本来は、留学が大学選びのもっと大きな動機になっていいはず。そのメリットや価値をメディアが伝えて、背中を押してあげるといいのかなと思います。
堀江:体感としては、海外に行ってみたいと強く希望する学生は、以前と変わらず存在しています。ただそういった学生は、社会からは見えにくい存在でもあり、あまり報道で取り上げられることはありません。

 

芦沢:米国国際教育研究所(IIE)「Open Doors」の調査によれば、アメリカに学位プログラムで留学する日本人は、2000年ごろには4万5000人ほどいました。しかし現在は2000人を切っています。こういうデータだけを見れば、確かに日本の若者は内向きだということもできるでしょう。しかし、堀江先生がいらっしゃるグローバル教養学部のようなデュアル・ディグリー・プログラムで海外大学の学位を取得したり、日本国内から海外との協働プログラムに参加したりする人は確実に増えています。一部の数字だけで決めつけず、ポジティブなデータもきちんと見たうえで判断することが大切だと思います。

 

外国人留学生の受け入れについても同様ですね。今はSNSや偏った報道の影響で「日本の税金を無駄食いする存在」のように思われていますが、彼らが日本社会にどんなプラスの効果をもたらしているか、きちんと分析したデータを公開し、それによって判断できるようにすべきです。

 

豊島:大学の職員からも「なぜ外国人留学生を取らなければいけないのか」という声が上がるようになっています。この問いに対して、皆さんならどうお答えになりますか?

 

芦沢:私の答えは「留学生が日本の学生をリードしてくれるから」です。日本人はどうしても引っ込み思案なところがあります。学部定員120人のうち、半数以上が留学生という環境にいたことがあるのですが、留学生がプロジェクトを引っ張って、グループダイナミクスを形成する例を何度も目にしてきました。留学生がいる教室には、混ざることで生まれるエネルギーがあります。このメリットを意識して選抜を行えば、いわゆる「純ジャパ」だけの環境よりも、うまく学びが広がるようになると思います。
堀江:そもそも大学とは、国籍や言語、文化的背景に関わらず、「あの大学で学びたい」という意志をもった多様な人が集う場であって、その多様性を構成する重要な存在の一つとして留学生は位置付けられると思います。

 

ただ、教室内に多様性があることには、教育的にも大きな価値があります。「当たり前」が通用しない他者とどう共存していくか、安全な場でのシミュレーションができるからです。忘れてはいけないのは、多様性をもたらすのは留学生だけではないということ。しかし、その多様な環境をより豊かにするには、やはりさまざまな国の留学生がいることも重要な要件だと思います。こうした環境の中では、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングの力も育ちやすいのではないでしょうか。

 

小林:外国人留学生の中には、「同じ教室にいても、日本人学生との交流がない」という悩みを持つ人も多いようです。交流の場を設ける大学も多いようですが、全面解決はなかなか難しいと聞きます。

 

芦沢:学内でセグリゲーションが起きてしまうのは、国や大学を問わない共通の問題だと思います。とくに数の多い中国人留学生は、どこの大学でも、自国の人同士で集まっているのを目にしますね。外国人留学生を日本人学生と交流させるには、やはり意図的な介入が必要でしょう。

 

堀江:私も交流の場づくりに挑み、そして失敗したこともあります。「交流のための交流の場」を作っても、学生はそうそう仲良くならないのですよね。学内活動でも授業のタスクでもいいので、何か意味のある行動を共にする仕掛けをつくる必要があります。その中で、お互いのバックグラウンドや考え方を知っていくことで、徐々に距離も縮まると思います。
芦沢:外国にルーツを持ちながら、日本国内で暮らす子どもも増えています。こうした子どもたちの大学進学率向上も、大学が取り組むべき課題の一つです。彼らの進学率がもっと高まれば、大学でのさらなる多文化間共修にも貢献してくれるでしょう。

 

神田外語大でも、外国ルーツの生徒を対象にした入試を行なっています。もちろん、誰と仲良くなるかは、最終的には学生自身が決めることです。しかし、大学生活というかけがえのない時間の中で、文化背景の異なる学生との交流学習などを経験してほしいとも思います。国籍や言語にとらわれず、ぜひ一生の友達を作ってもらいたいです。

 

堀江:パンデミックでは、日本人学生のコミュニティさえも途絶えてしまいましたからね。その再構築のためにも、留学生も巻き込んだコミュニティづくりには大きな意味があるでしょう。

 

豊島:ありがとうございます。「『逆風』下の国際交流」をテーマにお話をうかがってきましたが、最後に、今後の展望をお聞かせいただけますか。

 

芦沢:「逆風」の危機を、好機に変えていくことが重要です。これまで、大学は国際交流の意義について、社会への説明責任を十分には果たしてきませんでした。今はこの課題を見直すチャンスだと思うのです。

 

例えば、留学生向けの補助金は決して無駄遣いではないことを可視化する。あるいは、彼らは社会に負担をかける存在ではなく、むしろ経済効果を生んでいることをアピールする。いずれも単なるイメージではなく、客観的で具体的なデータと共に伝えていこうと考えており、国際教育に関する公聴会などの準備も進めています。

 

近いところでは、8月の国際教育夏季研究大会(SIIEJ)2026で、主要政党の政治家を招いて政策談義を行う予定です。今後もこうした取り組みを注視していただけたらと思います。

小林哲夫(こばやし・てつお)/教育ジャーナリスト
1995年より朝日新聞出版『大学ランキング』編集者。『筑駒の研究』(河出新書)、『学校制服とは何か その歴史と思想』 (朝日新書)、『女子学生はどう闘ってきたのか』(サイゾー)、『旧制第一中学の面目』(NHK出版新書)、『東大合格高校盛衰史』(光文社新書)、『早慶MARCH大激変 「大学序列」の最前線』(朝日新書)など、教育・社会問題についての著書多数。大学マネジメント研究会編集委員。

堀江未来(ほりえ・みき)/立命館大学グローバル教養学部教授・学部長
専門は教育社会学、多文化間共修、大学の国際化。アメリカ・ミネソタ大学博士(教育政策行政専攻、国際教育)。名古屋大学、南山大学等を経て、2009年に立命館大学に着任。立命館小学校・中学校・高等学校代表校長、サクロ・クオーレ・カトリック大学(イタリア)高等教育国際化研究センター客員研究員、ソウル国立大学比較文化研究所客員研究員、京都市外国人留学生交流等促進事業有識者会議委員などを歴任。

芦沢真五(あしざわ・しんご)/神田外語大学学長・教授
専門は比較教育、国際教育交流。アメリカ・ハーバード大学修士(教育学)。慶應義塾、大阪大学、明治大学、東洋大学、関西国際大学を経て2025年神田外語大学に着任、2026年4月より学長。UNESCO「高等教育における学修・ディプロマ・学位の認定に関する世界条約作成に向けた専門家会合」専門委員、UMAP(アジア太平洋大学交流機構)国際事務局事務次長などを歴任。

司会:豊島美弥子(とよしま・みやこ)/大学マネジメント研究会編集委員(2026年3月まで)
イギリス・リーズ大学修士(広報学)。学校法人関西学院入職後、総合企画部課長、八王子キャンパス開設準備室長等を経て2026年4月より国際連携機構事務部長。国際教育研究コンソーシアム理事。