新入生の皆さんへ、学長の式辞を掲載いたします

新入生の皆様

この度はご入学、誠におめでとうございます。
新型コロナウイルス感染症防止に配慮し、本日の入学式は中止と致しましたが、皆様のご入学を心から歓迎し、宮内孝久学長の式辞を掲載致します。
新型コロナウイルス感染症が拡大傾向にある中、新生活がスタートすることに不安を感じることもあると思いますが、皆様の学生生活が希望に満ち溢れ充実したものになるよう、教職員一同全力でサポート致しますので、一緒に困難を乗り越えて行きましょう。

神田外語大学

令和2年度入学式 式辞

本日、神田外語大学外国語学部、及び大学院言語科学研究科に入学した皆さん、誠におめでとうございます。また、ご家族や関係者の皆さまにも、心よりお慶び申し上げます。

昨年9月、スウェーデンの女子高校生で、環境活動家でもあるグレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)さん当時16歳が、国連気候行動サミットで演説を行いました。彼女はその中で、“How dare you”(文脈上、「よくもそんなことを!偉そうに言わないでよ」の意味)という強い表現を用い、世界のリーダーたちに対し、温室効果ガス排出問題に取り組まず、若い世代を裏切ったとして叱責しました。これは、皆さんのような若い世代から、地球温暖化対策をためらう私たち大人の世代への批判です。私は強烈なメッセージとして受け止めましたが、彼女と同世代である皆さんはどう感じましたか?

私は、「言葉は世界をつなぐ平和の礎」という神田外語大学の建学の精神を気に入り、学長に就任しました。言葉を駆使し、モノゴトを考え、知識を積み重ね、他者との違いを理解し、共感することで、世界の平和を作ろうとの意味です。これから皆さんは言葉を深く学びます。その際、「何のために学習するのか」をよく考えながら大学生活を送ってください。自分と他者との違いを見つけ尊重しながら、グローバル社会でどう生きるか、地球環境を守り平和な世界を作るには何をすべきかなどを、グレタ・トゥーンベリさんのように自分の頭でとことん考えて、自分の言葉で発信してください。

この度の新型コロナウイルス感染症の問題により、大切な入学式が中止となりました。皆さんをはじめとする関係者全員が、ショッキングな経験をすることになったのですが、悲しんでばかりではなく、モノゴトを“よく考える”きっかけにしましょう。予測不能な時代は今に始まったことではありません。人類が自然界に存在する以上、病原体や自然災害と付き合っていかねばなりません。意に反して、自分や家族、友人が事故や災害、戦争に遭遇することもあり得ます。世の中には自分でコントロール出来ることと出来ないことがあり、人知の及ばないことは枚挙にいとまがありません。自分自身のことから森羅万象に至るまで、不可思議なことだらけです。今般の感染症を見た場合、そのコントロールは非常に困難です。だからと言って、専門家だけに任せるのではなく、私たちも一緒になって何ができるか思案しましょう。例えば、感染症の原因である細菌、ウイルス、カビや寄生虫は、どのような特徴を持ち、人類は今までどう対処してきたのかを調べてみませんか。また、各国の新聞を読み比べ、対応方針の違いを調査し、自分の案をまとめ、友人と意見交換をし、入学式はなぜ中止になったのかを考えてみてください。

また、今回の感染症問題に関連し、公的機関の発表が必ずしも正確ではなかったり、一部の政府当局が意図的に事実を隠ぺいしたなどの報道が見受けられました。現代の情報洪水社会の中で、私たちは何が真実かを見定める力が求められます。しかし実際は、私たちの知識やモノの見方、考え方には偏りがあることは否めません。日々誤った情報に翻弄されながら、それに気づかず、受け売りの知識を、あたかも自分の考えのように伝えていることがあります。他者の影響を排除したり、偏見や先入観を拭い去ることは容易ではありません。真偽を見極めるためには、固定観念に縛られず、他人の言葉を無批判に受け入れないことがとても重要となります。

今後、日本政府が提唱する未来社会「Society 5.0」が到来します。そこではAI(人工知能)やロボットの働きにより、より便利で快適な暮しが期待できます。しかし一方、私はいつか人間がAIに支配されるのではないかと恐怖を感じる時があります。AIは、社会メディアを通じ、世論操作や思考誘導ができるようになるかもしれない、というのがその理由です。そうなれば、ヒトラーやスターリンのような独裁者になる可能性があり、人類の未来は悲劇的な末路を辿ることになります。ただし、私の悲観的観測を現実化させないための手段は存在します。それは、私たち一人ひとりがCritical Thinking(批判的思考力)を身につけることです。そのためには教養を涵養し、論理的にモノゴトを考え、そして感性を磨くことが大事になります。あらゆるモノゴトを “よく考える”ことを習慣化し、真偽を見極めようとすれば、皆さんはCritical Thinkerになれます。批判的思考力を身につけた皆さんは、偏見や先入観から解放され、AI に支配されず AI を使う側になるでしょう。

今一度、何のために大学・大学院に入学したのか、何のために学ぶのか、言葉を学ぶ価値は何なのかを考えてください。じっくりと腰を据えて思考する時間を大切にしてください。そして皆さん、ぜひ時々「言葉は世界をつなぐ平和の礎」と声に出してみてください。次第に外国語を学ぶ意義とCritical Thinkingの意味が重なってくると思います。物怖じせず、自分たちの考えを外国語でも発信し、より良い世界を作るために議論をしていきましょう。“よく考える”を日常化し、“自己発信力”を鍛錬し、“真偽を見極める力”と“批判的思考力”を養成する学びの場、それが神田外語大学です。

本日、神田外語大学に入学された皆さんとご家族、関係者の皆様方に、あらためてお祝いを申し上げ、私の式辞といたします。

2020(令和2)年4月1日
神田外語大学
学長 宮内 孝久