多民族国家アメリカ合衆国を読む(柳沼孝一郎 名誉教授)

多民族国家アメリカ合衆国を読む

 今から半世紀以上も前、はじめてサンフランシスコの地を踏み、しばらく暮らして以来、アメリカ合衆国は今も憧れの国のひとつであり続ける。そのロサンゼルス(16世紀中頃にスペイン人が到達、18世紀末に建設されたEl Pueblo de Los Angeles(天使たちの町)のロス・アンヘレスに由来)で、不法移民の一斉摘発に反発した抗議デモ隊とトランプ政権が派遣を指示した州兵が衝突する不穏なニュースに、1992年の「ロサンゼルス暴動」を思わせる異人種の対立すなわち「人種暴動 Race Riot」にまで発展しなければよいがと心が痛んだ。21世紀に入り、グローバリゼーションすなわち国境を越えた経済的なつながりがより拡大し、人口流動のために国(ネーション)という単位そのものがトランスナショナルなものとなり、S.ハンチントンの言う「ディアスポラ(Diaspora)すなわち移民コミュニティが国境を越えて広がるトランスナショナルな文化的共同体」が出現する時代に、寛容な多元主義と多様性を認める自由によって無限のソフトパワーを生み出してきた魅力あふれるアメリカ合衆国にあって、世界有数の多人種都市ロスでまたしても起こったからである。

 今回のロス暴動事件は米国の一都市だけの問題ではなく、現代国際社会に共通する出来事として理解し、国際社会のその先を考える意味で、地域文化研究を専門とする本学教員による以下の書を、Kanda University of International Studies, KUISで日々研鑽を積む学生の皆さんに一読を薦めたい。
神田外語大学国際社会研究所*編
『グローカリゼーション 国際社会の新潮流』

(和田純、中山幹夫、永井浩、小菅伸彦、仲野昭、福田守利、飯島明子、髙杉忠明、青山治城、濱中昇、土田宏茂、興梠一郎、黒﨑真、矢頭典枝、岩井美佐紀、エイチャン、子安昭子、阪田恭代、菊池達也、戸門一衛、柳沼孝一郎、髙木耕共著)、神田外語大学出版局、ぺりかん社、2009年。

(*旧「国際問題研究所」が「国際社会研究所」と改称され、旧「異文化コミュニケーション研究所」と統合されて現在の「グローバル・コミュニケーション研究所」となる) 

A.アギーレ・ジュニア、ジョナサン・H・ターナー
『アメリカのエスニシティ 人種的融和を目指す多民族国家』

神田外語大学アメリカ研究会訳(髙杉忠明、ギブソン松井佳子、武田明典、福田守利、吉田光宏、黒﨑真、桝本智子、柳沼孝一郎、阪田恭代、菊池達也共訳)、明石書店、2013年。

本書は、米国の大学生に向けて編纂された書を翻訳したもので、米国の主要なエスニック・グループを、所得、教育、職業、平均寿命などの各種指標および図表や統計を駆使して考察しており、多岐にわたる米国のエスニック問題(エスニシティとエスニック関係/エスニックの関係性についての解釈/アングロサクソン中心とエスニシティに基づく対立/白人系エスニック・グループ/アフリカ系アメリカ人/先住アメリカ人/ラティーノ/アジア系・太平洋諸島系アメリカ人/アラブ系アメリカ人/アメリカにおけるエスニシティの将来)を理解し、さらに研究するには極めて有用な書である。
神田外語大学 柳沼孝一郎
柳沼孝一郎(神田外語大学理事・名誉教授理事)

略歴:メキシコ国立自治大学(UNAM) 哲文学部大学院歴史研究科修士課程修了、メキシコ近現代史専攻。日本イスパニア学会理事、日本放送協会(NHK) テレビ・ラジオスペイン語講座講師、放送大学千葉学習センター客員教授、神田外語大学副学長などを歴任。現在、神田外語大学理事・名誉教授およびメキシコ日本アミーゴ会幹事。