吉川前国連大使との対談 ~学生たちと語り合う~

グローバル・スタディーズ第4回(7月4日)は登壇者として吉川元偉前国連大使が招かれ、それに先立つ形で吉川大使と在学生との対談がおこなわれました。
吉川大使との対談に参加したのは、久保谷富美男先生(グローバル・コミュニケーション研究所)が開講する「グローバル教養講座」にて勉学に励み、在外公館派遣員を目指す学生たち。なかには二次試験を合格し、まさに派遣員として内定したばかりの学生もいました。久保谷先生による司会進行のもと、学生たちは事前に考えた質問を真剣な面持ちで吉川大使に問いかけました。以下にその様子の概要を紹介します。



(学生)多くの日本人が持つ政治・国際情勢に対する無関心は教育によって変わっていくものか。それとも、何かが実際に起こるまで気づくことはないのか。
(吉川)日本人の世界への関心は高いが、現実的関心でない。勧めたいことは一人ひとりが海外へ赴き、身をもって世界を体験することである。旅行会社に頼らず、自分で航空券を手配し、宿を見つけ、外国の人々と交流しないと外国のことは分からない。報道のみで海外を過剰に怖がってはいけない。ニュースをみるのは大事だが、留学などを通じ自身が体験することが大切である。

(学生)公的機関で働くことについて、吉川大使はどのように考えているか。
(吉川)外務省で42年間働いたが、仕事の目的がPublic(公共)のためなので、やりがいがあった。私は世界のため、日本のために働きたかった。就職にあたっては、公的機関なのかそれ以外(民間企業など)なのかを選択することになる。「自分が何をしたいのか」を明確にすることが大事。民間企業に入っても、Publicのための仕事は存在する。

(学生)オリンピックが開かれる2020年に向けて、日本がこれからやるべきことは何か。
(吉川)2020年に限定しなくとも、日本人が取り組むべきことがある。先日はワールドカップ会場にて試合終了後にゴミを拾う日本人の姿が賞賛された。一方、高齢者に席を譲らない若者が増えているなど、道徳心が低下している。日本人の良い点と悪い点をしっかりと自覚し、尊敬される人間として振る舞うことが大事である。


(学生)シリアの内戦について聞きたい。日本はシリア難民の受け入れ数が極めて少ないと言われている。日本にできることは何か。
(吉川)シリア難民の受け入れ数が少ないことだけをもって、一概に批判の対象となることはない。日本はシリア難民を受け入れている近隣国には多大な支援をしている。難民の大半は自国の状況が落ち着いたら自分の生まれた国に戻りたいと考えている。難民受入国への支援は重要。いずれにせよ、人道問題は人道的な観点からのみの解決は難しく、その根本にある政治問題を解決しなければならない。

(学生)外交官として危険な国に行く機会もあったと思うが、不安はなかったのか。
(吉川)私の母は「馬には乗ってみよ。人には添うてみよ」とよく言った。将来いろいろな人に会い、色々なポストにつくであろうが、先入観で判断することなく、未知の分野であってもチャレンジして欲しい。外国の人達とも先入観なしにつき合って欲しい。そうすれば、人生が楽しくなるでしょう。



学生たちは吉川大使の答えに耳を傾け、自分自身の糧とするため懸命にメモをとっていました。彼らの人生観が大きく広がった1時間だったのではないでしょうか。