第18回 「使うべきか使わざるべきか」

フランの花はとてもきれいなので観賞用としても栽培されていますが、古くから香料や染料の原料として使われてきました。

11月に庭をぶらついて花をよく見ていた人は、クロッカスそっくりの薄紫色の花が咲いているのに気付いたかもしれません。そっくりなのも道理、これはクロッカスと同じ属の、ただし秋に咲くサフラン(Crocus sativus)という地中海沿岸原産の植物です。 サフランの花はとてもきれいなので観賞用としても栽培されていますが、古くから香料や染料の原料として使われてきました。香料・染料の元になるのは、長く延びた真っ赤な雌しべで、これを乾燥させてお料理などに使います。カレーに長粒米を添えるとき、サフランを入れて炊くと鮮やかな黄色いサフラン・ライスができます。またブイヤベースなどにも欠かせない香料です。

乾燥させた雌しべは赤褐色の細い糸のような感じになります。香辛料に関心のある人は、スーパーなどで瓶詰めになっているサフラン(の乾燥雌しべ)を見たことがあるかもしれません。他の香辛料は瓶いっぱいに粒やら粉末やらが詰まっているのに、サフランだけは別格で、ハトロン紙にちょびっと包まれた雌しべが瓶の中に収まっています。それで値段は他の瓶の香辛料と同じ。体積換算でも重量換算でも、破格に高価な香料なのです。一輪の花から採れる雌しべが3本しかなく、乾燥させると縮んでしまいますから仕方がないのですが・・・。 イングリッシュ・ガーデンにはサフランが沢山咲いていましたので、少し雌しべを収穫して乾燥させてみました。しかし、ちょっと不思議なことがあります。香辛料として売られているサフランの匂いと、私が収穫して乾燥させたサフランの雌しべの匂いが違うのです。収穫した方は、ニオイスミレに似た甘い芳香がありますが、売られている方のサフランはかなり強い刺激的な匂いです。「サフランである」という同定に誤りはないはずですけれども、イングリッシュ・ガーデン産のサフランの雌しべをお料理に使うべきか使わざるべきか、・・・そこが問題です。 追記:サフランの花期は短く、あっという間に花が終わって地味な葉だけになってしまいました。香料にする雌しべが高価なわけです。