第7回 「動物たちの大好物」

手の届くところの実はもう熟したかしら?

イングリッシュ・ガーデンの歩道にかかるいくつかのアーチには、それぞれ異なる種類の蔓性の植物がからみついています。10月はちょうどサルナシが熟しはじめているため、私は日々そわそわしています。

手の届くところの実はもう熟したかしら? サルナシ(猿梨)は、実際にはナシとは関係ないマタタビ科の蔓性の木です。東アジアの温帯から亜寒帯にかけて自生し、日本では北海道から九州にかけて分布します。秋にみのる長さ2~3cmの薄緑色の実は、完熟すると柔らかくて甘く、キーウィ・フルーツそっくりの味がします。実際、キーウィ・フルーツはサルナシと同属の中国原産の植物をニュージーランドで栽培品種としたものですから、似ているのも当たり前なのです。 昨年、後期の講義で学生と庭に出てサルナシを食べてみせたところ、恐る恐るかじった女子学生が「美味しい!」と大喜びし、アーチによじ登って採っていました。しかし、もし秋の山でサルナシを見かけたら、採って食べる前に必ず思い出していただきたいことが1つあります。それは、サルナシの実がツキノワグマの大好物だということです。サルナシ採りに夢中になっている間に、後ろから大きくて黒いクマさんがひょっこり現れるかもしれません。 ツキノワグマだけでなく、タヌキやテン、それからもちろんニホンザルもサルナシをよく食べます。これらの動物が何を食べているか、どうやって調べたのでしょうか。
実際に野外では、動物が食物を食べている現場はほとんど見ることができません。そこで研究者たちは糞を拾い集め、中に含まれる未消化物から食性を推定するわけです。こうした研究の難しさ、お分かりですね? まず研究者たちは登山ができ、長距離歩き回る体力があり、動物の習性に詳しく、どの動物の糞がどのような形をしているか見分けることができなければなりません。そして、糞の中に含まれる小さな種が何の種か、判別できなければならないのです。冷蔵庫の中に動物の糞を保存していても怒らない、寛大な家族も必要ですね。 もし皆さんが将来、哺乳類研究者と一緒に暮らすようなことがありましたら、どうぞ寛容の精神をもって、冷蔵庫の中の怪しいビニール包みには目をつぶってあげて下さい。こうした地を這うような研究によってはじめて、生き物と生き物の精妙な関係性が明らかになっていくのですから。 ※最近では糞の中のDNA分析により、従来よりも詳しい食性の推定が可能になりました。