第3回 「ヤマモモ」

イングリッシュ・ガーデンへ行く途中の木の下、赤黒い実がたくさん落ちていたのに、気づいた方はいらっしゃいますか?

1号館と4号館の間を抜けてイングリッシュ・ガーデンへ行く途中に、常緑の木が3本あります。そのうち1本の木の下に、赤黒い実がたくさん落ちていたのに、気づいた方はいらっしゃいますか?
これはヤマモモの木です。「モモ」と名前がついていても、モモ(バラ科)とは縁もゆかりもなく、ヤマモモ目、ヤマモモ科に属します(ですから「何の仲間?」と訊かれても、「ヤマモモの仲間」としか答えようがありません)。

日本では関東以南、九州までの暖地に自生し、食用として栽培されるほか、街路樹としても利用されています。雌雄異株で、実を付けるのは雌の木です。中国では「山桃」ではなくて「楊梅」というそうですが、発音は中国語学科の人に訊いてくださいね。 ヤマモモの実る6月、ムクドリたちはこの木に大喜びで実を食べにやって来ます。もちろん私も、大喜びで講義の合間に食べています。赤い実は未熟ですから、赤黒く熟した実を摘んで味わってみてください。直径1cmほどのまん丸い実は、表面がぶつぶつしていて中心に硬い種があります。さわやかな甘酸っぱい果汁が、蒸し暑い今の季節のけだるさを吹き払ってくれます。この実はジャムにしても美味しいのですけれど、種を取り出すのが面倒なので、私自身は作ったことがありません。 前回ご紹介したサクラもそうですが、ヤマモモにしても、なぜ甘い果実をつけるのでしょうか。果実の甘みのもとは光合成で作り出した糖分で、植物にとっては自分自身のエネルギー源として、また身体を作る材料としても使う貴重な資源です。その糖分をわざわざ果実として「投資」するのであれば、それに見合う何らかの「利益」があるはずです。答は、そう、頭上で大騒ぎをしながら次々に実を飲み込んでいるムクドリたちにあります。果実を食べる鳥たちは、食べた後どこか別の所へ飛んでいき、そこで糞をします。糞の中には種が混じっています。結果としてヤマモモの種は母樹から遠く離れた所にまいてもらうことができるのです。 植物は動くことができないので、分布を広げるためには、種子を遠くへ散布する何らかの工夫が必要です。よく目立つ甘い実は、そうした工夫の1つなのです。