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元国連大使・吉川元偉先生による講演会「ロシアのウクライナ侵攻」

2022.05.31

吉川元偉先生:
1974年外務省入省。国際連合全日本政府代表部特命全権大使・常駐代表、在スペイン日本国大使館特命全権大使、初代アフガニスタン・パキスタン支援担当大使、経済協力開発機構(OECD)日本政府代表部特命全権大使などを歴任。

5月18日、国連の元特命全権大使である吉川元偉先生の特別講演会が実施されました。外交の第一線で活躍された元国連大使からお話が伺えるチャン スに、会場には多くの学生たちが足を運びました。今回の講演会テーマは「ロシアのウクライナ侵攻」。これはメディアでも連日報道されていて、今後の動向に 世界中が注目しているトピックです。国連のあるべき姿や国の安全保障についても含め、吉川先生に丁寧に解説していただきました。

まず吉川先生は学生たちに問いかけます。
「あなたはウクライナの大統領です。国民の命を最優先するために降伏してロシアの植民地になるか、それとも自国の領土を守り抜くために武力での抵抗を続けるか。あなたはどちらの選択肢をとりますか」
真剣に悩む学生たちに「これは日本でも現実に起こりうる問題です」と吉川先生。今回のウクライナ侵攻のような事案が日本で起きてもおかしくないという言葉に、学生たちの表情も引き締まります。

▲世界の平和のために、国連の安全保障理事会は今後どうあるべきなのか。学生たちも真剣にこの問題に向き合います

そして講演会は「国連はなぜ ロシアのウクライナ侵攻を止めることができないのか」という話題へ。そもそもなぜ今回のような戦争が起きているのか、そしてなぜこの戦争を誰も止めること ができないのか。吉川先生が今回の戦争の背景や現在の国連の問題点について分かりやすく解説をします。「現在世界で大変なことが起こっている」という漠然 としたイメージをもつだけだった学生たちも、この戦争の真の問題点に気づいていきます。

「1日でも早くこの戦争が終わってほしいです」と発言した学生に対して「戦争が終われば犠牲者は増えずにすみますが、それは同時にウクライナがロ シアの植民地になることを意味します」と吉川先生。自国を守るために日々命がけで戦っているウクライナの人々。戦争の終結を願う言葉は必ずしも彼らが喜ぶ ものでありません。吉川先生のこの言葉に学生たちもはっとさせられたようでした。

▲「ニュースの報道で理解した気になっていたけれど、今日本当の意味でこの戦争の問題点が分かった気がします」と学生たち。

惜しまれつつ終了の時間を迎えた今回の講演会。吉川先生のもとには質問をするために多くの学生の姿が。
「この戦争はどのような形で終わりを迎えると思いますか?」
「吉川先生が思う理想的な国連とはどのような組織ですか?」
「ロシアが国連の安全保障理事会で拒否権を行使し続けるかぎり、この戦争は終結しないのでしょうか?」
ウクライナ侵攻の問題点や今後あるべき国連の姿など、吉川先生と学生たちの意見交換は時間の許すかぎり行われました。

―元国連大使・吉川元偉先生より―
「どの国にとっても理想的な国連」は存在しません。なぜなら、世界各国が「共通の価値観」をもつことは限りなく不可能に近いからです。だからこそ、 それぞれの国の立場からものごとを見つめることはとても大切です。しかしそのうえで「この問題の正論はどこにあるのか」を考えることは忘れないでほしいで すね。そして学生たちには、ロシアのウクライナ侵攻を「どこか遠い国で起きている戦争」として片づけないでほしい。ウクライナの難民を助ける活動は私たち 個人でもできます。他人ごとだと思わないで、自分には一体何ができるのかを常に考えてみてください。

「将来国際的に活躍するために、世界の問題に真剣に目を向けていきたい」と学生たちのモチベーションも上がった今回の講演会。世界全体が全く同じ 価値観や考え方をもつことは限りなく難しいもの。だからこそ、国同士が思いやりをもち国際秩序を守っていく必要があります。バイデン大統領の来日もあり、 日本の安全保障は国内でも注目されている問題の一つ。日本とアメリカが安全保障の観点で今後どのように合意をするのか。この問題を「自分ごと」と捉えて、 真剣に向き合う学生が一人でも増えることを期待します。