ものづくりの楽しさは自分の手で完成させること

わたしは工業高校の出身で、大学でも土木工学や構造力学を学び、将来は橋などの設計者になりたいと考えていました。就職活動の際には地元の設計会社で2ヶ月間のインターンシップを経験。ただ、設計業務を経験する中で自分の手でものづくりをしている感覚を得られず、より具体的に「どうやって作っているのか、完成までの工程が知りたい」と感じたのです。そのとき、私のやりたいことは設計ではなく、現場に立って自分で建造物を完成させることだと感じました。そこから一気に方向転換し、地元広島発祥で、幼い頃から名前を知っていた建設会社のフジタに入社を決めました。
フジタの良さは個人の能力を正当に評価してくれる風通しの良さです。若手からの発言でも熱心に聞いてくれます。私が2年目の時、上司から予算を預けられ「失敗してもいいから一人でやりきってみろ」と一つの工事を任せられたことがあります。現在は工期などの関係で一人に任せることは難しくなっていますが、社員の能力を伸ばすためであれば、惜しみなくチャンスをくれるところは変わっていません。そういった社風と数々の建設・土木技術を有しているところは大きな魅力だと思います。

スケールは日本の10倍~海外業務の魅力~

海外への事業展開を広げるため、2012年に若手社員を海外に派遣して育てるという方針が打ち出され、わたしが選ばれました。「今後会社の海外事業を背負っていく人間になってくれ」と送り出されて以降、香港・マレーシア・カタールで建設・工事業務を経験してきました。現在も海外で鉄道工事を担当しています。ワクチン接種の関係で一時帰国していますが、直ぐに現地に戻り、鉄道工事の作業所でエンジニア兼副所長として技術的な問題や懸案事項の対応、マネジメント対応等を行っていく予定です。
海外の業務はとにかくスケールが大きいです。日本で施工できる工事はある程度範囲が限られてきますが、海外の工事における人員や現場の規模は日本の10 倍ほどになります。カタールでは1日に2,500人ほどが働く現場でした。これから進めていく工事現場は鉄道工事で70km ほどになります。弊社が日本で手掛けた鉄道工事とは規模が大きく異なります。土木技術者としては、現場が大きければ大きいほど楽しいので、このスケールの大きさが海外の魅力ですね。

海外でぶつかった壁と大切にしていること

初めて海外赴任をしたのは29歳のときで、マネージャーとして香港に2年間駐在しました。当時は全く英語ができなかったので、まずぶつかったのは言葉の壁でした。マネージャーとして派遣されているので現場に指示しなければならなかったのですが、うまく英語が伝わらず名ばかり上司になっていたと思います。現場の人も「あの人に話しても意味がない、何を言っているのかわからない」となってしまい、現場が上手く回らず、何とかしなければという想いで英会話学校に通い始めました。英語レベルは下から二番目でしたが、とにかく英語で話す度胸がつき、海外の方と積極的にコミュニケーションを取れるようになりました。また、なんでもメモを取り、会話や会議の後にメールに落とし込んで文章化して確認をとるようにしました。現場とコンセンサスをとるようにしていくことで、自然と現地スタッフと同じ方向を見て話せるようになりました。わたしも現地スタッフもお互い英語が第二言語のため、なかなか英語が伝わりにくいというのがあったので、広東語も織り交ぜてコミュニケーションの幅を広げていき信頼関係を築くことができました。
カタールでは、宗教の違いによる課題にぶつかりました。イスラム教徒がほとんどでしたので、ラマダンなど年間でイスラム教に関するスケジュールが決まっています。その中で工事を進めていかなければならず、ほかの日本人やヨーロッパ人スタッフのスケジュールを調整するのが大変でした。最適な業務調整は何か考え、時間をかけて話をすることで、やっとうまく回せるようになりました。
いずれの国でも「現地の習慣に飛び込むこと」と「日本人の価値観を押し付けないこと」の二つを大切にしてきました。海外では、日本人は日本人コミュニティを作りたがるのですが、私は意識的に現地の人と観光地や食事に行くようにして、打ち解けていきました。また、現地の考えや習慣、生活スタイルがありますので、日本特有の「仕事が終わっていないのに帰らないよね?」といった考え方を押し付けることはNGです。しっかりと理由を説明し、納得した上で仕事をしてもらいます。その中で「できない」と言われることもありますが、その時はできない理由ではなく、どうすればできるのか現地スタッフと一緒に考え、方法を探すことを大切にしています。

女性のもつ役割

日本でも建設業における女性進出は進んできていますが、まだまだ男性が多いイメージがあると思います。ただ、海外ではむしろ女性が働きたい職業として、建設業が選ばれることが多いです。体力的な面で、工事現場で働く女性スタッフは少ないですが、オフィスワークはほぼ女性です。今いる現場は8割が女性で、マネージャーや重要なポストはほぼ女性が占めています。ここに女性の調整能力の高さが表れていると感じます。弊社では、発注者や下請企業との調整が多いのですが、話を上手くまとめてくれますので、コミュニケーションが必要なところは女性スタッフにお願いしています。
アジアでは女性の向上心が非常に強いです。私としてもそんな人に仕事をしてほしいと思いますし、どの会社も長く一緒に働いてくれる人を求めているので、向上心のある女性登用は、今後ますます重要になってくると感じます。

世界で活躍するためのコミュニケーション能力を育むプレコン

世界的なコロナ禍であっても、建設業は現地で手を動かすのが主流です。ただ、徐々にICT技術が現場に導入されていますし、リモート土木建設もやっていかなければいけないと意識が変わってきています。今後は業界問わず、リアルとオンラインの双方で自分の意見をワールドワイドに発信していくことが格段に増えていくと考えています。プレコンへの挑戦は世界に活躍するために必要となるコミュニケーション能力向上につながるはずです。プレゼンテーションは聞き手との会話ですので、オンラインであっても反応を見ながら話していくことで、世界中の人と話をするときに役に立つ能力が身につくと思います。
また、エントリーした皆さんは時間をかけて準備を行い、コンテストに望まれていると思いますが、準備は絶対に裏切らないのでやってきたことを信じて頑張ってほしいです。みなさんそれぞれが「こうしたい!」という想いがあると思います。ただ、それを意識し過ぎて「間違えずにやらなければ」というのは違います。とにかく間違えを恐れずにやってほしいです。日本語以上に表現力が求められると思っていますので、自分の考えを自分の言葉として伝えて、自分らしいプレゼンテーションとなることを祈っております。