携わる翻訳出版事業JAPAN LIBRARYについて

ジャパンライブラリー事業は、日本の書籍を世界の読者に届けるべく、政府国際広報予算にて、2014年6月よりスタートしました。JPICは事業スタート当初から協力しています。日本のコミックや小説の中には、海外でも人気の高い作品もたくさんありますが、多くの書籍は海外で読まれることが少ないことが現状です。この事業では、これまであまり翻訳されてこなかったノンフィクション分野を対象としており、日本という土壌で育った独自の思想、芸術、また技術を伝えるものから、社会学・歴史学におけるアカデミックなものまで含みます。日本語で生まれた知が“世界の知の創造”に貢献することを目的として、活動しています。

海外での日本書籍について~どの様な本が好まれるのか~

現在、欧米、アジアでは、共通して日本のサブカルチャーが人気です。私たちのシリーズでも、例えば、「妖怪」についての本は目を引くようです。作品を選ぶ際には、日本人としての先入観を持たず考えることが大切だと思います。私たちは「海外ウケする日本文化」と考えると、寿司やてんぷら、歌舞伎など「日本の伝統文化」、あるいは「何か特別なもの」を想い浮かべてしまうことが多いのではないでしょうか。でも、本来、文化は日々暮らしのなかにあるもので、日本の面白い文化は、普段の生活の中にたくさんあります。
また、「日本文化」と独特に扱われるトピックでも、他国の文化と共通するものを感じとることができると思っています。逆に、そのことを通じてこそ、「日本文化」の魅力、特異性、面白さが見出されると思うのです。例えば、妖怪のキャラクターは「人間の醜い部分」を形にしたものが多いです。人間の醜さというのは、国や時代を超えて共通したところがあるのではないでしょうか。その共感できる部分がある一方で、日本人がそこに加えた「愛らしさ」、日本の土壌で形作られた「妖怪」のユニークさが一層際立つのだと思います。このことは、本を紹介するときにも、意識しています。

研究会、国際ブックフェアでの書籍の紹介

毎年、世界各国で開催される研究会やブックフェアにブースを出展し、私たちの手がける日本書籍を紹介しています。どの国でも共通していることですが、私たちが扱うノンフィクション作品では、特に、類書との違いを説明することが求められます。まずは、自分の提案する書籍を読込み、自分なりに面白いと感じるところを見つける、そして、それがどうして面白いのか、考える。私の場合は、その際、「普通は〇〇だけど、この本では・・・」と出てくるアイディアが、提案方法につながります。また、同時に「誰」に読んでほしい本か、「どんな人」に求められている本か、つまり、読者対象も想像しながら提案します。そして、プレゼンの中では、相手との対話の中で、その場の呼吸を感じとることが大切です。いくら完璧に準備した説明をしても、意識や興味の相違があれば、相手に通じません。プレゼンでは必ず相手が存在します。相手の息づかいを感じること、そして共通意識を見つけ、そこで新しく生まれる何かを楽しむことが必要だと思っています。

翻訳書籍の魅力を伝える難しさ~学生に学んで欲しいこと~

私には、「翻訳本」という独特の性格と魅力を理解しきれていないところがあります。もともと日本で生まれた本ですし、原著者がいます。しかし、翻訳版は、訳者という新たな著者のもと、新たな解釈が加わり、新たな読者対象が想定され、基本的には生まれ変わっていると思います。でも、ある訳者が、「翻訳するときには、元の文章で表現されているものの“奥”に耳を澄ませなければならない」、と言っていました。単に、「原著者の言いたいこと」ではなく、「表現されていることの奥」と話していたのがなんだかしっくりきました。うまく言えませんが、おそらく、大切なことはその“奥”にあるものなんじゃないか。それはきっと共通しているのではないか。私も、そこを感じとること、伝えることに真摯でありたいです。
今回のコンテストでは、テーマ2に「日本の本の英訳版翻訳を売り込め!」があります。このテーマで応募される学生の方々には、是非、選んだ書籍を読み込んで、自分なりに感じたことを伝えていってほしいと思います。また、コンテストへの参加を通してたくさんの出会いがあると思います。新しいことや異なることを怖がらず、自分との違いを楽しむこと、そして、違いの発見に終わるのではなく、その違う世界とつながりを見つけていってほしいです。