自身の成長に繋がった 異動先での挫折

 新卒で入社したのは国際電信電話という会社で、現在のKDDIです。国際間の通信を行う会社で、入社当初の配属先ではそこまで難しい英語を使わなくても仕事は出来ました。しかし入社3年目に企画部門に配属されてから、状況が一変しました。海外の通信事業者との交渉が多くあり、若手だったので議事録を書くように指示されたのですが、まず書くことができませんでした。ビジネスで話していることを理解できるほどの英語力が、私にはなかったのです。その時は衝撃を受けて、しっかりと英語を勉強しようと思いました。早朝の英会話学校に1年間通って、コツコツ勉強して、やっとという感じでした。そして1年間勉強した記念に社内の留学試験を実力試しに受けてみたら、留学の基準に達していたのです。1年くらい英語漬けの環境におかれれば、もっと英語が上手くなるだろうなと思ったのと同時に、企画部門でしたので、統計や財務、経済などを知らないとしょうがないなと思いました。それを英語で勉強できれば一石二鳥だと思ったので、米国でビジネススクールに1年半通い、MBAを取得しました。

視野が広がった 外資系企業への挑戦

 当時、私がボーダフォンに転職したきっかけは2つありました。1つは、国際電信電話からKDDIになって大きな会社になった時、全然違う会社になったという感覚を持ちました。自分が培ってきたものが、足元から崩れていったような感じがしたのです。
 そして、もう一つが当時社長秘書を4年間くらいしていたのですが、立場的に意見が通しやすく、段々と自分に力があるのではないかと勘違いをするようになっていたのです。肩書きがなくても、外資でもベンチャーでも通用すると思っていました。実際のところ、転職してすぐは全然だめで、自分を立て直すのには苦労しました。それでも私は転職をしてよかったと思います。それは、いろいろなルールや文化、人間関係の構築の仕方があるというのを体感でき、視野も広がったからです。そういう意味では異文化があるのは当たり前というのが自然と身につきました。ボーダフォンは当時、日本最大の外資系企業で、いろんな国籍の人と生活や仕事を共にしていたため、英語だとか日本語だとかという感覚、ひいては異文化という感覚がなくなってしまったのです。

自分を助けてくれた「英語」のスキル

 社会人生活を送る中でいろいろな荒波がありましたが、自分を助けるひとつのきっかけは英語でした。ボーダフォンでは、日本の経営戦略チームの代表として、英語を使ってグローバル戦略チームと仲良くなって情報交換をすることで、日本の中では役員レベルの情報を継続的に入手することができました。この大きなグローバル企業の中で、情報を持っているということが自分の価値になりました。
 実のところ最初は欧米人からなるグローバルチームの中に入っていけませんでした。しかし、それを克服したのは、日本に戻ってからメールやチャットでやり取りを繰り返すことでした。段々と相手の言っていること、考えていることの背景がわかってきて、マメに日本の状況を伝えたりすることで、相手と同化・融和(アシミレーション)して、自分のポジションを築くことができました。印象に残っているのは、年2回参加していたグローバル戦略チームのある年の会議でのことです。新たに就任したグローバルチームのトップが、遅れて到着した私を認識してわざわざ席まで挨拶に来ました。その時に、自分の存在が認められた、ここに居場所があるんだということを感じました。日本人同士で固まることなく、時間をかけて距離感を近づけていったことで、グローバルチームの一員としてアシミレーションできたのだと思います。

誠実さを伝えることがプレゼンの本質

 ボーダフォンは買収され、ソフトバンクとなりました。私はソフトバンクからアメリカのシリコンバレーに本社を置くCloudianに移り10年間を過ごし、最近そこからスピンオフして、EDGEMATRIX 株式会社を設立しました。
 先月、資金調達を完了しましたが、プレゼンは、起業や事業提案のように何かを始める時には必ず求められます。そういったときには、「長く付き合える価値」「信頼できる会社・人」であることを伝えることこそがプレゼンの本質だと考えています。だからこそ、一時的で派手なパフォーマンスでごまかすのではなく、人となりが伝わるプレゼンを目指してください。
 また、プレゼンにおいて、もう一つ大切なことはオーディエンスを知ることです。プレゼンをする時は常に自分の伝えたいことがあり、オーディエンスも聴きたいことがあるからこそ、その場にいるわけです。その「伝えたいこと」と「聴きたいこと」には最初はギャップがあるかもしれませんが、伝える側は、そのギャップを埋めるということをしなければなりません。聞き手は何が聴きたいのかということを自分なりに徹底的に考え、しっかりと伝わる方法で伝えていくことを意識してみてください。そして、目を瞑ったら自分の話すスライドが出るくらいまでは練習をしてください。

学生の皆さんにメッセージ

 必死でリサーチをし、自身の経験を活かしたプレゼンの説得力というのは全然違います。表面的に調べた人が予選を通過することはないはずです。やはりエネルギーとリソースを使った人たちが選ばれるのだと思います。今までやってきたこと、準備、経験の全てが問われます。それは質疑応答のときにも、しっかりと結果が出るはずです。
 良いプレゼンというのは、聞き手にしっかりと届くプレゼンだと思います。自分の伝えたいことを聞き手が理解してくれたときの共感や同化、融和しているという感覚は快感です。コンテストに参加する皆さんには、是非この機会に味わっていただきたいと思います。