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平成24(2012)年からスタートした「社会言語学的変異研究に基づいた英語会話モジュール開発」は、21世紀COE (Center of Excellence)プロジェクトで27カ国語の言語モジュールを開発した東京外国語大学研究チームとの共同プロジェクトです。最初の4年間は私が研究代表者を務めましたが、その後は矢頭典枝先生(英米語学科教授、現・関西学院大学教授)が研究代表を務めました。
日本の英語教育のなかで、実際に使用される多様な英語の変異(言語の多様性)を学びに取り入れたいという想いから始まったプロジェクトです。この研究は、英語を単一の「正しい」形としてではなく、社会や地域、文化によって異なる多様な姿を持つ言語として捉え、それを教育現場でどのように生かせるかを模索することを目的としていました。なお、平成30(2018)年にスタートした「多様な英語への対応力を育成するウェブ教材を活用した教育手法の研究」は、この平成24(2012)年にスタートしたプロジェクトの延長線上にあります。
具体的には、社会言語学の視点から、英語の発音、語彙、文法のバリエーションを教材に反映させることで、学生たちが異なる英語のバリエーションへの理解を深め、グローバルなコミュニケーションの場で柔軟に対応できる力を養うことが成果として期待できます。
世界における英語の実際の使用状況では、いわゆるネイティブスピーカー以外の英語話者と対話する機会が圧倒的に増えています。そのため、国際語としての英語(English as an International Language:EIL)や共通語としての英語(English as a Lingua Franca:ELF)の役割が、ますます重要になっていると考えられます。このプロジェクトで開発された12地域の英語モジュール教材は、こうした現状を踏まえ、日本人英語学習者に対する英語話者の概念におけるパラダイムシフトを促すうえで非常に意義深いものだと感じています。
この研究では、発音や会話のモジュールを開発するために、それぞれの英語を母語とする人たちの音声を収録し、教材を開発していきました。収録は両大学で行われたのですが、神田外語大学ではELIの教員の協力を得て、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど、さまざまな英語の収録をしました。MEC(メディア教育センター、現・教育イノベーション研究センターの前身)の職員たちも全面的に協力してくれました。ふたつの外国語大学とその研究者、教員、職員がコラボレーションして、研究を発展させた意義は大きいと思います。
この教材は大学や大学院での英語音声学や社会言語学の授業に加え、中高生がオーストラリアなどへ修学旅行に行く際の事前学習として、またシンガポールに赴任する日本企業の社員向けの英語研修や通訳の方々のリソースとしても役立っています。さらに、この教材は、無料でオンラインで提供されているため、多くの日本人英語学習者に利用していただきたいと願っています。