第12回 “Don’t shout here, go to Japan right now !” 〜こんなところで吠えていても何もならん!~

またまたプリンタービジネスのことです。プリンタ商品の価格や新商品投入のことで日本の事業部サイドの対応が悪く、ビジネスが滞りました。ドイツ人の営業部隊からは、連日、「このままでは売れない。ジリ貧になる」と泣きつかれる始末。私は事態の深刻さを理解はしましたが、対処するにはとても自分ではできないと思い、そのまま、上司であるNECドイツ社の社長に訴えました。

「こんな価格では売れません。それに商品ももっと音を静かに出すようにしないとだめです。プリンター事業部はマーケットをわかっているのでしょうか」と言いました。私は当然社長が私の言うことに同意し、日本のプリンター事業部に働きかけてくれることを期待していました。

しかし、社長は「こんなところで吠えていても何も解決せんぞ。お前が価格も商品の仕様も改善しないと売れないと本気で思うなら、今すぐ日本に出張して、事業部長に直談判して来い」と言うではありませんか。私は(それは社長がやってくれないと)と思いましたが、社長はそんな私の心の中を見透かしたかのように、「ビジネスはお前がやっているんだ!お前が本気でそう思うなら自ら説明して、事業部長を説得してこい」と追い打ちをかけてきます。わたしは反論できませんでしたが、一方で「ビジネスはお前がやっているんだ!」と言われたことを嬉しく思いました。信頼されている、任せられている、と思ったからです。

私はその場で、「わかりました。すぐに日本に飛んで説得してきます」と言いました。説得できるだろうか、という不安はありましたが、市場の状況を自分のことばで説明するしかないと言い聞かせて日本へ飛び発ちました。

日本に着くやさっそく事業部長を訪ね、説明に入ろうとしたとき、事業部長から「ああ、その件か。お前の社長から聞いているよ。どうすればいいんだ」と言われました。私の知らないところで社長は根回ししてくれていたのです。「これから仲を出張させるから、聞いてやってください」と事前にインプットしてくれていたのです。事業部長からいろいろ突っ込まれはしましたが、こちらの熱意は伝わったようで、最終的に事業部長は「わかった。この価格にすれば売れるんだな。ただし、ノイズレベルの方はすぐには改善できないが、こういう手を打ってみる」と前向きに応えてくれたのです。私の説得がうまくいったというより、社長の根回しが最大の成功の要因だったと思います。私の説明は、社長の根回しの上に乗っかり、単に熱意を加えただけだったかもしれません。

この件で私は社長任せにしようとした自分の姿勢を反省しました。なるほどビジネスをやっているのは自分なんだと思いました。人任せにせず、当事者意識をもって事業に当たれ!と社長は教えてくれたのだと思います。そうでないと人は動かせないぞと。その一方で、社長は、私の知らないところで事業部長に電話して対応をお願いしてくれていました。これも部下育成だったと今になって思います。

サラリーマンは、組織で動いていると、しかも上がいると、ついつい責任感や覚悟が希薄になりますが、だからこそビジネスは自分がやっているんだという意識を持つことが一層大事だと学びました。当事者意識なしに人は動せないからです。その後、覚悟のゆるさを自覚したときは、このときの社長のことばを思い出し、自分を戒めています。

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