第5回 ”Here we are !” ~事件は現場で起きている~

NECの海外のプリンタビジネスは、当時(1983年頃)北米が圧倒的に大きく、プリンタの事業部長からいつも「欧州部は北米部を見習え!」と言われていました。そこで中近東部から新たに課長を迎えたタイミングで、プリンタ事業部と定例会議を開くことにしました。

 初回の定例会議に欧州部からは、部長、課長、主任、主担当、私(新入社員)の5人が雁首揃えて臨みました。会議では主任が説明しましたが、完膚なきまで打ちのめされ、我が部長は、「こんな会議ならもう二度と出ぬ!」とキレる始末。部長がさっさと先に帰ったあと、新しくきた課長は我々に「まあ、こういうこともあるよ。いつかプリンタ事業部を見返してやろう!」と言って、しょげている我々3人を慰めてくれました。この課長は、日本から出張ベースでやっていては商売は伸びないとみて、ドイツに現地法人を設立すべく、社内で起案承認を取り付け、自ら社長として赴任しました。

 プリンタはPCディーラー経由の販売が主流で、なかでもI社のPCディーラーが当時は有力でした。西ドイツ(当時)には全国に400社ほどのI社 PCディーラーがありましたが、まずは我々のプリンタが店頭で販売されているのか、どのような評価を受けているのかを調査することにしました。400社全部を訪問するのは時間がかかるので、自ら飛び込み訪問するのは、ハンブルグ(北部)、フランクフルト(中部)、ミュンヘン(南部)の計70社とし、それとは別にテレマーケティングで400社すべてに調査をかけました。

 ドイツ語で聴き回ったので理解できないこともありましたが、現場を見ると見えてくるもの、感じるものがありました。NECのプリンタが実際に店頭に置かれて売られているのを目撃したときは、おもわず ”Here we are ! " と内心で快哉を叫んでいました。

 日本では、受注処理や工場へ生産手配したり、輸出手続きをしたりで、プリンタを見ることはありません。すべて書類上で処理が進みます。だから、自分が日本で輸出手続きを踏んで出荷したプリンタがドイツの街の小さなショップで実際に置かれて売られているのを見たときは、ほんとうに感激しました。日本で生産し、出荷したプリンタがちゃんとここに届いている! この実感はなにものにも替えがたい喜びでした。

 この調査をもとにプロモーション計画をドイツ現法とともに立案しました。ドイツへ出向した社長(元課長)から、「この調査結果とプロモーション計画をお前自身がプリンタの事業部長に直接説明しろ」と命じられ、自信をもって説明することができました。「北米を見習え」と言われることはもうありませんでした。

 我々欧州のプリンタビジネスはその後一気に飛躍しましたが、プリンタ事業部長に完膚なきまで打ちのめされたことで欧州部が奮い立ったことがその出発点でした。実際に市場の現場に立ったことでアイデアも生まれ、販売への思いも一層強くなりました。「踊る大捜査線」にあった「事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!」を身をもって体験した出来事でした。

 

  • image_(9).png