3次ドーナツブーム <その1> 『I’m donut ?』(アイムドーナツ)ってなに???

「生ドーナツ」に牽引されて、日本国内で第3次ドーナツブームが起こっています。その主役のひとつ、「I’m donut ?」の人気の秘密を、日本のドーナツ文化の中に位置付けながら、「2回」にわたって読み解きます。 

東京の「中目黒駅」の高架下に長蛇の列。お目当ては??

「ナカメ」の愛称で若者たちに親しまれている「中目黒駅」(東急東横線/東京メトロ日比谷線:東京都目黒区)。中目黒(なかめぐろ)は、恵比寿や代官山が徒歩圏内にあり、桜並木で有名な目黒川の周囲に広がるエリア。洗練されたショップやカフェ、レストランが揃っている人気スポットです。 

その中目黒駅の正面改札を出て、山手通りを挟んだ向かいにある「中目黒高架下」に、長蛇の列が絶えない場所があります。列の先頭を見ると、ガラス張りの厨房と「I’m donut ?」(アイム ドーナツ)という看板が目に入ってきます。外から中が見える厨房には、揚げたてのドーナツがずらりと並んでいて、食欲をそそります。そうです。「I’m donut ?」は、大人気のドーナツ専門店。 

ここで販売されているのは「生ドーナツ」。生地がやわらかく、口に入れるととろけるようなふんわり、もちもち食感を楽しめるドーナツ。「インスタ映え」するドーナツとしても有名です。 

「マリトッツォ」ブームの火付け役、平子良太シェフが手がける「I’m donut ?」

この「I'm donut ?」は、福岡市中央区六本松(ろっぽんまつ)で絶大な人気を誇るベーカリー「AMAM DACOTAN」(アマムダコタン)のオーナーシェフ、平子良太氏が手掛けているドーナツショップです。六本松は「福岡PayPayドーム」(通称「福岡ドーム」)にも近い場所です。 

「I'm donut ?」は、東京進出第1号店として2022年3月に中目黒店がオープンし、続いて同年5月に渋谷店、23年7月に原宿店が開業しています。中目黒店の開業のときは、最長3時間待ちの列ができたと報じられています。 

平子良太シェフは、日本における、イタリアのスイーツ「マリトッツォ」ブームの火付け役となった人物としても有名です。「マリトッツォ」(maritozzo)とは、ブリオッシュ(ふんわりとした甘い発酵パン)のような丸くやわらかいパンに切れ込みを入れ、生クリームを挟んだスイーツです。 

ちなみに、「アマムダコタン」とは、アイヌ語の「アマム」(小麦) と「コタン」(集落)を掛け合わせた造語で「小麦の家」という意味。この「AMAM DACOTAN」も、2021年10月に、東京・表参道にオープンし、こちらも行列が途切れない人気店になっています。 

実は、「生ドーナツ」は、もともと、本家である人気ベーカリー「AMAM DACOTAN」の看板メニューで、連日売り切れが続くほど大人気のスイーツなのです。平子シェフによると、「食べた人がわくわくして驚くような気持ちになってほしい」という思いから生まれたとのこと。 

 「I’m donut ?」って、「これ、ドーナツなの?」

「生」という言葉で、なめらかでやわらかな生地を表現。「もちもち」していながら、口の中で「ふわしゅわっ」と溶けるような柔らかな食感。私たちが馴染んでいる一般的なドーナツの食感とまったく異なります。そのため、「I’m donut ?」、「これ、ドーナツなの?」と聞きたくなるほど「新食感のドーナツ」という感想を述べる顧客が多いようです。 

人気ベーカリー「AMAM DACOTAN」のなかでも、この「生ドーナツ」は人気が高く、購入できない顧客が続出。そうした状況をみて、平子氏は新しくドーナツ専門店をオープンすることを決意。それが、ドーナツ専門店「I’m donut ?」なのです。経済/ビジネス用語でいえば、企業が特定の部門を分離して新会社として独立させる「スピンオフ」(Spin-off)に近い手法かもしれません。 

ちなみに、「I’m donut?」という表現、つまり「これ、ドーナツなの?」は、人に「認知的不協和」(cognitive dissonance)を生じさせます。「自分が認知していることに対して矛盾する考えや行動がある場合にストレスを感じる」ことを表した心理学用語です。人は、認知的不協和を覚えると、不快やストレスを感じます。その結果、その不快感やストレスを解消するために行動を起こします。 

例えば、最初に、ブランド、商品、ショップ名として「I’m donut ?」というロゴや文字を見れば、「えっ、何?ドーナツショップ?」「新しいアパレルのブランド?」と興味を示して、実際にそれを確認してみたいと思う人が多いでしょう。クチコミで「やばい!このもちもち、ふわしゅわって、本当にドーナッツ?」という多くの人々のリアクションを知れば、「生ドーナツ」を実際に試してみたくなります。 

こうした認知プロセスは、顧客の実際の購買行動(action)につなげるための最初のフェーズ(段階)である「注意喚起」(attention)や「関心」(interest)の点で大きな意義がありす。もちろん、将来の「購買行動」につながる「記憶」(memory)にも残りやすくなります。 

ところで、言語デザイン的にみると、「?」(クエスチョンマーク)は、疑問符という意味合いにくわえ、「対話のきっかけ」を作る手段・記号と考えることができるそうです。言い換えれば、「I’m donut?」という表現は、平子シェフが手がけるドーナツ専門店から顧客に投げかけられた「会話をしたい!」というメッセージであり、コミュニケーションのきっかけを作り出すマークとみなすこともできます。 

 「I’m donut ?」のおいしさの秘密は?

平子シェフよれば、「I’m donut ?」のおいしさのポイントは次のとおりです。 

ドーナツの生地に使用するのは、すべて国産小麦。数種類の粉をブレンドして、「ブリオッシュ生地」と「菓子生地」の2種類を作っています。どちらの生地も、長時間低温熟成発酵をさせています。そして、「手作りドーナツ」として、ひとつひとつ丁寧に、スタッフの手でドーナツに成形します。 

生ドーナツ用のブリオッシュ(丸いパン)生地の中には、つなぎとしてオーブンで焼いた「カボチャ」を皮ごと混ぜ込んでいるのが重要なポイント。 

その後、成形されたドーナツを、油にゆらゆらと浮かべて片面ずつ揚げていきます。こうした料理法によって、水分量がキープされ、なめらかでモチモチとした生地が実現されているのです。 

もうひとつの菓子生地には、北海道産キタノカオリをはじめとする数種類の小麦粉をブレンドし、ブリオッシュとは異なる「ふわっもちっ」とした食感が作り出されています。 

「I’m donut ?」のオススメは?

「I’m donut ?」のオススメ商品をいくつか紹介しておきましょう。第1が、看板メニューであり、一番人気の「I’m donut ?」です。値段は、240円/個(税込)。自慢のブリオッシュ生地にきび砂糖をふるった生ドーナツです。生ドーナツ特有の「ふわしゅわっ」とした食感や小麦の風味をしっかりと楽しめます。 

第2が「グレーズド」(glazed)です。しっかり焼き色をつけた生地に、グレーズをたっぷりかけたシンプルなドーナツ。ライ麦が香ばしく、素朴な味わいが楽しめます。ちなみに、「グレーズド・ドーナツ」とは、シュガーシロップをかけたドーナツのこと。そのシロップは固まると半透明の膜になるので、ドーナツの表面がツルツルした光沢のある状態になります。 

第3が「レモン」(lemon)です。上記の「グレーズド」と同じ生地に、レモン風味のグレーズをかけ、フレッシュなピスタチオと削りたてのレモンピールをトッピング。生地の香ばしさとレモンの酸味が絶妙にマッチした生ドーナツです。 

このほかにも、味覚をそそる「生ドーナツ」のラインアップが続きます。

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その2へ続く