今も輝き続ける映画『ハリー・ポッター』とメディア・フランチャイズ戦略!

公開から20年以上たった今も輝き続ける映画『ハリー・ポッター』の人気の理由とメディア・フランチャイズ戦略をまとめました。

 2001年にスタートして映画『ハリー・ポッター』シリーズは全8作

ワーナー・ブラザースの映画シリーズ『ハリー・ポッター』(Harry Potter)。J・K・ローリング(J. K. Rowling)の同名小説(1997年)を原作とする映画シリーズです。

第1作『ハリーポッターと賢者の石』(2001年)からスタートして第8作の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(2011年)まで続きました。さらに、スピンオフ(派生作品)として、人気作品『ファンタスティック・ビースト』(通称『ファンタビ』)も生まれました。

あらすじを簡単に述べれば、主人公のハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)が「ホグワーツ魔法魔術学校」(Hogwarts School of Witchcraft and Wizardry)に入学し、学年ごとに起こるさまざまな事件を仲間たちの協力を得て解決するなかで魔法使いとして成長し、宿敵である闇の帝王ヴォルデモートとの戦いに挑むというストーリーです。

 ロンドン・キングクロス駅「9と3/4番線」

ホグワーツ魔法魔術学校に向かう列車が出発する英国ロンドンのキングスクロス駅(King’s Cross Station)のシーンに強い印象を持っている方も少なくないでしょう。ホグワーツの学生たちが9番線と10番線の間にある壁にカートを押して消えていくシーンは特に印象的です。ハリー・ポッターが電車のチケットの表記を見ながら「9と3/4番線?」(Platform nine and three quarters)と確認した番線です。

映画『ハリー・ポッター』は、関連シリーズ全体を含めると累計の興行収入は世界歴代3位の96億ドル(1.3兆円、13作品)に達しています。累計興収96億ドルに対する総予算は17億ドル(2,379億円)。コストに対する収入の割合は、単純計算で5.7倍。「映画」という(リスキーな)投資ビジネスとしても、破格の優良案件だと言えます。

ちなみに、映画シリーズ世界興行収入第1位は、アベンジャーズなどの『マーベル』映画(ディズニーグループ)。全作品(44作品)を合わせると、全世界で294億ドル(4.1兆円)以上の興収です。第2位の『スターウォーズ』(14作品)が103億ドル(1.4兆円)です。

 シリーズの中では、第1作『ハリー・ポッターと賢者の石』が一番人気?

『ハリー・ポッター』シリーズ作品の世界興行収入のランキングは次のとおりです(『The Numbers.com』データ)。

第1位 『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(2011年) 13.2億ドル(1,850億円)

第2位 『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年) 9.7億ドル(1,360億円)

第3位 『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』(2010年) 9.5億ドル(1,330億円)

世界全体の興行成績でいえば第2位ですが、日本では第1作目の『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年)を「お気に入り」にあげる人も少なくないとされます。

ちなみに、英語圏では、『ハリー・ポッター』の登場人物の中では、「影の主役」ともいわれている、アラン・リックマンが演じる「セブルス・スネイプ」(Severus Snape)の人気が格段に高いといわれています。ホグワーツ魔法魔術学校の「魔法薬学」教授。ハリー・ポッターが所属するグリフィンドール寮のライバルであるスリザリン寮の寮監。陰険な性格で、特にハリーを目の敵にするのですが・・・

 『ハリー・ポッター』のメディア・フランチャイズ戦略

『ハリー・ポッター』に関しては、原作、映画にとどまらず、テーマパーク、スピンオフ作品、ブロードウェイミュージカル、舞台、オーディオブック、モバイルゲーム、グッズなど、単なる本や映画にとどまらず、複数の事業に拡大・展開され、同時に、強力な「ファンコミュニティ」が構築されています。IP(知的財産:Intellectual Property)の観点からいえば、1997年の原作の発刊から現在にいたるまで、複数の事業にわたるビジネスとして拡大・成長してきたと評価できます。

こうしたビジネス手法は、一般に「メディア・フランチャイズ」(media franchise)戦略、あるいは「マルチメディア・フランチャイズ」(multimedia franchise)戦略と呼ばれます。有力エンターテインメント企業のウォルト・ディズニー・カンパニーは、それを「長期間にわたって複数の事業や複数の地域にまたがって価値を生み出す」方式と、定義しているようです。

この「メディア・フランチャイズ」戦略が機能するためには、まず、原作や映画が格段に魅力的でなければなりません。その前提を踏まえたうえで、この戦略のメリットをあげれば、(単発ではなく)長期間にわたって、かつ、複数の事業(メディア)を通して、収入が期待できることです。同時に、魅力的な原作や映画のヒットを中核にして、複数の関連事業に展開することで、ファンのコミュニティも巨大化し、コンテンツとしての魅力が一層強化され、さらに長期におよぶ収入増につながります。

 メディア・フランチャイズ戦略の最大の成功例は『ポケモン』(Pokémon)

2019年の調査(『VISUAL CAPITALIST』)によると、累計収入面でみた場合、メディア・フランチャイズの成功例は次のとおりです。

 第1位が『ポケモン』(Pokémon、1996年)の920億ドル(13兆円)。第2位が『ハローキティ』(Hello Kitty、1974年)の800億ドル(11兆円)。第3位が『クマのプーさん』(Winnie the Pooh、1926年)の750億ドル(10.5兆円)。第4位が『ミッキーマウス』(Mickey Mouse、1928年)の700億ドル(9.8兆円)。第5位が『スター・ウォーズ』(Star Wars、1977年)の660億ドル(9.2兆円)。

『ハリー・ポッター』(Harry Potter、1997年)は第10位で310億ドル(4.3兆円)です。

 さて、世界的に人気の『ハリー・ポッター』ですが、特に、日本での人気が高いといわれています。日本では、小説の愛好家の呼称である『ポッタリアン』(Potterian)という言葉もよく使われるそうです。

日本における『ハリー・ポッター』の人気の理由を、映画評論家の森直人氏が明快に解説していますので紹介しましょう(『現代ビジネス』)。

 日本の観客は『ハリー・ポッター』の学校生活に共感しやすい?

第1の理由は、舞台が「学校」であることです。日本の学校文化と、『ハリー・ポッター』のホグワーツ魔法魔術学校(イギリスの寄宿学校がモデル)が似ていて、その世界観が日本の観客にしっくりきた、ということです。たとえば、(アメリカの学校文化とは異なり)制服を着用して学校生活を送ることに類似性があります。さらに、「学年の違い」に関係するいくつものエピソードは、学校生活で上下関係が意識される傾向が強い日本人のほうが理解しやすいと、森直人氏は指摘します。

ところで、ストーリーに関連して、世界の多くの人々は『ハリー・ポッター』に対して次のように感じているようです。映画で描かれている「友情」「確執」「10代のトキメキ」「別れ」などの経験を通して、観客は、登場キャラクターをよりリアルに感じ、自分自身を登場人物に容易に投影することができる。『ハリー・ポッター』とは、乗り越えられない苦しみの中で、辛い真実に直面しながらも、成熟し、憎しみを克服する物語であると。

第2の理由が、ビジュアル面での可愛らしさが、日本人ウケしたことです。たとえば、映画シリーズの最初のほうで主人公たちが着用する制服や街の造形の可愛らしさ。もちろん、俳優のダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンもキュートです。つまり、映画『ハリー・ポッター』のビジュアル的特性が、日本の「カワイイ文化」にうまくマッチしたということです。ちなみに、3人の関係を表すという意味で、第2作『秘密の部屋』の最後に、「ハーマイオニー(エマ・ワトソン)はハリー(ダニエル・ラドクリフ)とハグをしますが、ロン(ルパート・グリント)とは握手で終わる」シーンの『伏線』は秀逸です。

 人気マンガ『週刊少年ジャンプ』との共通点?

第3が、人気マンガ『週刊少年ジャンプ』のヒットの方程式にある「友情」「努力」「勝利」の3要素が『ハリー・ポッター』のストーリーにも含まれているということです。さらに、マンガとの関係でいえば、『ハリー・ポッター』の原作小説と映画が次々に発売・公開されるスケジュール感と、日本の連載マンガの単行本が定期的に発売されていくスピード感覚が似ていたと、森直人氏は分析しています。そういえば、映画も11年間で8作と、1年から2年の間隔で、観客の記憶が明瞭なうちに、計画的に公開されたように映ります。

 第4の理由が、映画の原作の「読みやすさ」「理解のしやすさ」です。同じイギリスが生んだ世界的有名ファンタジー小説である『ナルニア国物語』(1950年)や『指輪物語』(1954年)に比べて、『ハリー・ポッター』のほうが読みやすいこと。さらには、『ナルニア国物語』や『指輪物語』を通して、日本の人々が英国ファンタジー小説に慣れ親しんだのちに、『ハリー・ポッター』(1997年)が登場した順序性・時間性に伴う理解の容易さ。森直人氏はそうした点も人気の重要な要因として指摘しています。

 ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンなどの魅力的俳優陣

さて、映画という面では、俳優陣の魅力とパワーと、リアルな成長過程も、映画『ハリー・ポッター』の人気の重要な要因だといえます。主人公ハリー役のダニエル・ラドクリフ。ハリーを支える親友ロン・ウィーズリー役のルパート・グリント。ハリーとロンを導く優等生ハーマイオニー役のエマ・ワトソン。

彼らの俳優としての魅力にくわえ、映画シリーズの進行とともにリアルに成長していく姿を目撃しながら、観客も同時進行で大人に成長していく。あたかも、観客もハリー・ポッターの仲間に入っているような一体感が醸成されています。

さらに、ロケ地やセットを通して、イギリスの伝統的な風景・文化の香りを堪能できるのも、この映画の大きな魅力となっています。(前述した)ロンドン中心部にあるキングスクロス駅(ホグワーツ魔法魔術学校行き列車の始着駅の「9と3/4番線」)。ロンドン中心部にあるロンドン最古のアーケード付き商店街レドンホール・マーケット(ハリーとハグリットがダイアゴン横丁へ行く前に通った場所)。オックスフォード大学のクライスト・チャーチカレッジ内の「ザ・グレート・ホール」をモデルにしたセット(ホグワーツ魔法魔術学校の大広間)など。

「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京」

この『ハリー・ポッター』のメディア・フランチャイズ戦略のひとつとして注目されるのが、『ハリー・ポッター』のスタジオツアー施設「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 –メイキング・オブ ハリー・ポッター」(2023年6月16日開業:東京都練馬区)です。年間約200万人超の来場者数を目指しているとのことです。

比較の意味で、「ジブリパーク」(愛知県長久手市)についていえば、2022年11月に5エリアのうち3エリアを先行オープンしましたが、2023年度の全面開業時、愛知県は年間約180万人の来場者と、年間480億円の経済波及効果を見込んでいるとされます。一方、「スタジオツアー東京」は、「ジブリ・パーク」以上の来場者数を目標にしています。

この「スタジオツアー東京」は、ロンドンに続いて世界で2番目。2012年にオープンした「ワーナー ブラザース スタジオツアーロンドン‐メイキング・オブ・ハリー・ポッター」は累計で1,700万人以上が来場し、今なおそのチケットは入手困難となっているそうです。

時代は「モノ消費」から「コト消費」に移っています。この体験型エンターテインメントの「スタジオツアー東京」を通して、多くの人々が『ハリー・ポッター』の「魔法の世界」を堪能することでしょう!

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