マーケティング最前線!

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映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』アメリカで爆発的ヒット中!

2023.05.09

マリオとルイージ、ピーチ姫、クッパ、キノピオ、ドンキーコング、ヨッシー。
任天堂のおなじみのキャラクターたちが、「ハリウッド」(米国映画産業)の『常識』を破壊した!!!
現在、アメリカと世界で爆発的ヒット中の映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の成功の要因をまとめてみました。

ハリウッドの格言「ゲームの実写化は成功しない??」

アメリカのハリウッド(映画産業)には、次のような格言があります(あるいは、つい最近までありました)。 

「(ビデオ)ゲームの映画化は成功しない!!」 

しかし、ここ数年、この格言をくつがえす『ゲーム映画』がいくつか誕生しているのです。 

第1のヒット例が、セガ社のアクションゲームの主人公、超音速で駆け抜ける青いハ

リネズミの『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』。
ちなみに、アクションゲーム(Action Game)とは、キャラクターを操作してステージを次々にクリアしていくゲームのこと。
「ソニック」(sonic)は「音速」という意味です。「ヘッジホッグ」はハリネズミ。

その映画の第1弾『ソニック・ザ・ムービー』(原題:Sonic the Hedgehog、2020年パラマウント・ピクチャーズ)の米国内興行収入(興収)は195億円に達しました。名優兼コメディアン、ジム・キャリー(『トゥルーマン・ショー』『マスク』主演)の素晴らしい「悪役」(ドクター・エッグマン)ぶりも話題になりました。 

続く第2弾『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』(原題:Sonic The Hedgehog 2、2022年パラマウント・ピクチャーズ)の米国内興収は255億円。ジム・キャリーの悪役ぶりがさらにパワーアップするとともに、テイルスやナックルズなどの新しいキャラクターが登場し、ソニックの「最強バディ」(buddy、仲間)が生まれました。2024年12月に全米で第3作目が公開されます。

映画『ソニック』、『アンチャーテッド』が大ヒット!

第2のヒット例が、ノーティードッグ社が開発した、ソニー・プレイステーション用のアクションアドベンチャーゲーム『アンチャーテッド』です。 

映画『アンチャーテッド』(原題:Uncharted、2022年ソニー・ピクチャーズ)の北米興入は199億円。ちなみに、「chart」とは「海図にする」ことで、「uncharted」は「未知の領域」「海図にない場所」を意味します。マーベル版映画『スパイダーマン』シリーズで知られるトム・ホランドと、映画『トランスフォーマー』シリーズのマーク・ウォールバーグが出演。 

昨年12月に日本で公開された大ヒット映画『THE FIRST SLAM DUNK』(東映、名作バスケットボール漫画のアニメ映画)の興収が、2023年3月末現在、122億円を超えたといわれています。それに比べても、『ソニック』や『アンチャーテッド』の興収の大きさが理解できます。

映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 アメリカで爆発的ヒット中!

そして、2023年4月5日に公開された『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(以下、映画『スーパーマリオブラザーズ』という)が、北米公開から5日間で興収270億円を超える爆発的ヒットを記録。4月20日現在で、米国興収は490億円、世界全体興収971億円を突破し、依然として記録更新中です。現在、「世界興収1,300億円超え」も視野に入っています。 

昨年大ヒットしたトム・クルーズ主演『トップ・ガン マーヴェリック』の世界興収が約2,000億円ですので、映画『スーパーマリオブラザーズ』の爆発的ヒットの度合いが理解できます。

映画『スーパーマリオブラザーズ』予告編(トレーラー)

英語版:https://www.youtube.com/watch?v=-wq1w_p3taE

日本語版:https://www.youtube.com/watch?v=46odtzf2RjA

「ビデオゲームは映画に適さない」という風潮が変わった

この映画は、『ミニオンズ』『SING/シング』などのヒット作で知られる映画製作会社イルミネーション(ILLUMINATION)と、任天堂との共同製作。配給はユニバーサル・ピクチャーズ。 

冒頭で紹介した格言のとおり、米国映画会社群(ハリウッド)は、長い間、「ビデオゲームの映画化」(video game adaptation)に苦戦してきました。
その結果、「『ビデオゲーム』は映画化に適した『IP』(Intellectual Property、「知的財産」)ではない」という考えが、アメリカの映画産業に浸透していました。
「IP」(アイピー)を簡単に説明すれば、「ゲームタイトルやキャラクター、漫画やアニメーションなどの著作権」を意味します。 

最近、エンターテインメントの世界で「IPビジネス」という用語がよく使われます。マンガ・アニメ、それに登場するキャラクターなど著作権がある「モノ」を、映画化、グッズ化して収益をあげるビジネス・モデル(ビジネスの仕組み)です。もちろん、日本の得意分野のキャラクター・ビジネスもIPビジネスに含まれます。 

以上のように、ゲームの映画化に関して苦難の歴史をたどってきたなかで、『ソニック』『アンチャーテッド』、そして今回の『スーパーマリオブラザーズ』の成功例が出現したのです。 

今、米国映画産業内で、ビデオゲームの映画化に関して完全に「潮目」が変わった、といわれています。

映画『スーパーマリオブラザーズ』では「ヘタレなマリオ」をピーチ姫が助ける?

ここで、映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のあらすじを、ネタバレしない範囲で紹介しましょう。
ちなみに、英語の「ネタバレ」として、「movie spoiler」という言葉がよく使われます。「spoil」は「台無しにする」「ダメにする」という意味です。 

イタリア系アメリカ人の双子、マリオとルイージはニューヨーク(ブルックリン)で配管工として働いています(「Super Mario Bros.」という配管工の会社を経営)。
ある日、誤って「謎の土管」に迷い込んでしまいます。その土管の先は、現実とは異なる「魔法の世界」。 

その結果、マリオとルイージは離れ離れになってしまい、弟ルイージは大魔王クッパに囚われてしまいます。
その大魔王クッパの目的は、キノコ王国を滅ぼすこと。マリオはピーチ姫(キノコ王国王女)ら仲間を連れて、ルイージ救出と大魔王クッパを倒す旅に出ます・・・ 

この映画では、「大魔王クッパに囚われたピーチ姫を、マリオとルイージ兄弟が救いに行く」という従来のストーリーではなく、「クッパに囚われたルイージを救いに行く『(ヘタレな)マリオ』を、『(強い)ピーチ姫』が助ける」という「現代風の筋立て」に転換されています。

映画『スーパーマリオブラザーズ』の成功の要因は?

映画『スーパーマリオブラザーズ』の成功の要因を整理しておきましょう。 

第1の要因は、映画製作スタジオ「イルミネーション」と任天堂の強力なコラボレーションです。
イルミネーションは『ミニオンズ』『怪盗グルー』『SING/シング』などの作品で高く評価されているアニメ製作スタジオです。 

映画『スーパーマリオブラザーズ』は、そのイルミネーションの創業者兼最高経営責任者のクリス・メレダンドリ(Chris Meledandri)氏と、「マリオ」シリーズなどの生みの親で任天堂代表取締役フェローの宮本茂氏の「夢のタッグ」のもとで誕生しました。 

メンダンドリ氏はこう述べています。「任天堂は、デザインの適応に始まり、すべての決定において、クリエイティブなパートナーとして全面的に協力してくれた。ストーリー、ボイスキャスティング(声優の選定)、音楽など。当社と任天堂は、映画の音楽とスコアリング(できあがった映像に対して音楽をつけていく技法)において、ゲームの音楽をどのように反映させ、統合するかについて何度も話し合った」

ゲームのエッセンスを映画の中にふんだんに盛り込む!

イルミネーションと任天堂の協力関係のなかで、特に、アニメーションと全体のルック(見え方・外観)に多くの注意が払われました。その結果、鮮やかな色彩とエネルギーに満ちた動きを実現し、映画のなかでゲームのエッセンスを見事に再現することに成功しました。 

特にアクションシーンのディテールを緻密に表現し、息をのむようなシーンが再現されています。実際、キノコ王国、クッパ城、そしてゲーム特有の横スクロールのアクションなど、ゲームの基本的な要素がすべて盛り込まれています。 

イルミメーションと任天堂のコラボにより、「ゲームの原作から映画が離れすぎるというミスを犯さなかった」と高く評価されています。そこには、1993年に公開された実写版『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』に対する厳しい評価の教訓が生かされています。

1993年公開の実写版『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』の厳しい教訓

実写映画『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』(原題『Super Mario Bros.』)は、「これのどこがマリオ?」と観客を困惑させるほど、世界観やキャラ設定を改変しすぎた結果、厳しい評価を得たという歴史があります。 

しかし、今回の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の制作に参加したイルミネーションは、ミニオンズの生みの親で、キャラクターを重要視するスタジオとして知られており、ゲームの世界を忠実に再現することに成功したのです。

イルミネーションの熟練された技法にもとづき、マリオ、ルイージ、ピーチ姫、クッパ、キノピオ、ヨッシー、マリオカート、さらには、ドンキーコングやスプラトゥーンまで、任天堂の人気キャラクターが惜しげもなく映画に登場します。 

くわえて、ゲーム内のアイテムも高画質のCG(コンピュータ・グラフィックス)で再現されています。「プレイ動画」(ゲーム実況中継)に似たアングル(角度)や動き、そして、音楽についても、すべて「マリオ」ファンの「心のスイッチ」を押す仕掛けが満載されています。

才能豊かな声優陣が任天堂のキャラクターに命を吹き込んだ!

第2の成功要因は、声優陣の選定です。マリオ役のクリス・プラット。映画『マネーボール』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などで知られる人気俳優です。 

キノコ王国のピーチ姫はアニャ・テイラー=ジョイ(『ヴァンパイア・アカデミー』)、マリオの弟ルイージは、チャーリー・デイ(『モンスターズ・ユニバーシティ』)が担当しています。そして、大魔王クッパを担当しているのが名優・歌手のジャック・ブラックです。 

ジャック・ブラックといえば、なんといっても、映画『スクール・オブ・ロック』(2003年)。ロック好きの冴えない青年が一流小学校の代用教員になりすまし、学校に内緒で生徒たちにロックバンドを結成させる。笑いと音楽が満載のなかにも、「本当の教育とは何か」という問いを投げかけた全米ナンバーワンヒットを記録したコメディ映画でした。

こうした才能豊かな俳優たちの「声」による快演を通して、任天堂のおなじみのキャラクターたちに「命」が吹き込まれ、素晴らしい映画に仕上がりました。

子供から大人までのファミリー層をターゲット!!!

第3の要因は、映画『スーパーマリオブラザーズ』のターゲット層が広いという点です。現時点で任天堂のゲームを楽しんでいる子どもや若年層から、昔熱中した親世代まで、広範囲のファミリー層を射程におさめています。
任天堂ゲームのエッセンスを詰め込んだこの映画は、子どもや若年層にとっては、映画で新しいゲームを楽しんでいるような感覚を起こさせます。一方、大人には、ゲームに夢中になった楽しい子供時代のノスタルジーを誘います。 

つまり、この映画にも、人々の「過去の楽しかった思い出」にリンクさせる「ノスタルジア・マーケティング」の手法が活用されています。ノスタルジー(郷愁)には、人々の不安やプレッシャーを除去する効果があるといわれています。パンデミック、戦争、デジタル技術の猛スピードの進化。「マリオ」に感じるノスタルジーはそうした不安から多くの人々を解放してくれるのです。 

そして、この映画の公開時期が、新型コロナ感染も一段落し、再び映画をストリーミング(動画配信)ではなく、映画館でリアルに楽しみたいと考えるファミリー層の心の変化とシンクロ(同調)することで、巨大な「ヒットのうねり」をつくりだしたのです。 

では、最後に、、映画『スーパーマリオブラザーズ』から、ビデオゲームの映画化の成功に関する教訓をまとめておきましょう。 

第1が、ハリウッドのなかで、適切なビジネスパートナーを選び、対等の協力関係を構築する。
第2に、そうしたパートナーシップをもとに、ゲームの原作から過度に離脱しないように、キャラクターとストーリーを正しく表現(再現)する。
第3に、その過程で、昔からのファン、現在のファン、将来のファンのすべてが楽しめるように、ゲームのエッセンスをふんだんに盛り込む。そのうえで、適切な声優陣を選定し、キャラクターたちに「命」を吹き込む。
第4に、(あらゆるビジネスに通じることですが)映画ファンを含む人々(顧客)の意識の変化、時代の流れを正確に読み取る。

任天堂の主力事業が、「ゲーム」と「映画」の2本立てになる!

今回の映画の大成功で、任天堂の経営戦略にも好ましい変化が生まれそうです。これまでは、「Nintendo Switch」を中心としたビデオ・ゲームが主力事業でしたが、そこに、任天堂のキャラクターを活用したIPビジネス、特に、映画部門が強力な戦力として計算できるようになりました。つまり、任天堂の主力事業が、「ゲーム」と「映画」の2本立てに進化するのです。 

任天堂代表取締役フェローの宮本茂氏は、今回の映画の大ヒットを受け、次のような感想を述べているようです。「マリオは、ディズニーのミッキーと並ぶ潜在力を持っている。今回の映画の大ヒットで、やっとミッキーの背中が見える位置にきた」と。 

アメリカの人気映画批評サイト「ロッテン・トマト」(Rotten Tomatoes)では、映画『スーパーマリオブラザーズ』に対する観客の肯定的評価を表す「オーディエンス・スコア」(audience score)は「96%」に達しています。 

日本においても、映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の世界に「沼る」(沼にはまるように、どっぷり浸かる)観客が多数出てくることでしょう!!


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