マーケティング最前線!

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ディズニーランドは、「反時計回り」(左回り)、それとも「時計回り 」(右回り)で移動しますか?

2023.04.17

「反時計回り」(左回り)にすると売り上げが伸びる?

マーケティングで、店舗の「動線」(人の動き)は、「反時計回り」(左回り)になるように配慮するのが基本だと、よくいわれます。つまり、顧客が入り口から入って、店舗内を左にまわって動くように、レイアウトをすることが好ましい、という意味です。ちなみに、「反時計回り」は、英語で「counter-clockwise」といいます。

 実際、店舗の動線を「反時計回り」にすることにより、時計回り(右回り、clockwise)に比べ売上が伸びる例も少なくないようです。スーパーやコンビニの入り口、商品の陳列、会計(レジ)なども、顧客が無意識に左回りで動くように設計されているとよくいわれます。

 それはなぜでしょうか?「科学的に完全にコレが正しい」という理由はないようですが、いくつかの理屈が説明されています。

 右利きの人は、左回りの方が商品を取りやすい?

第1の理由は、ほとんどの人が右利きであるから、というものです。日本人の場合、右利きが9割で左利きが1割。アメリカ人も同じぐらいの割合だそうです。

右利きが多い理由も確定的なものはないようですが、人間は言葉をしゃべることで左脳が発達したため、左脳がコントロールする右腕が利き腕になりやすい、という説明があります。

「右利きの人」は、一般に左手で「買い物かご」を持って、右手で商品を取るので、左回り(反時計回り)で動くほうが、棚から商品を取りやすくなります。顧客も、商品が取りやすくなれば、より多くの商品を買ってくれる可能性が高まります。

ついでの話をもう一つ紹介します。そもそも、なぜ「利き腕」があるのでしょうか?これも、明確な理由はわかっていないそうです。ひとつの理由として、「(脳を含む)身体の効率性」があげられています。たとえば、転びそうになったとき、脳がその都度、右手を出すか、左手を出すかを判断して、その判断が遅れれば、大怪我につながります。そうしたときに、自動的に「利き腕を出す」とプログラミングされていれば、(即座に)「効率的に」身体を動かすことができます。同時に、脳の負担も軽減されます。こうしたことを踏まえ、「利き腕があるのは、要するに、脳が楽をするため」と説明する見解もあります。

商品を左側の視界に配置し、感性の右脳を刺激し「衝動買い」を誘う?

第2の理由は、人間の視界と脳に関係するものです。人間は、左側に見えるものは右脳が、右側に見えるものは、左脳が処理しています。「左脳」は、論理的なことが得意で(論理脳)、言葉も担当します。「右脳」は、空間認識、共感、感情、画像、音楽など感覚的な面をつかさどっています。なお、左右の脳がどうして反対の身体領域をコントロールしている(交差している)のかに関しては、突然変異説(脊椎動物の祖先の頭が突然ねじれた)などがあるようですが、確定的な理由は現在見つかっていないそうです。

 こうした視界と脳の関係を踏まえ、顧客の左側の視界に商品がたくさん見えるようにレイアウトし、左回りに誘導すれば、感覚的な分野をつかさどる「右脳」が刺激され、「これ欲しい!」「これ好き!」と衝動的(?)に買いたくなる、というわけです。

 プレゼン資料は、図形・グラフ・画像等は「左」に配置?

余談ですが、プレゼンテーション資料を作成する場合も、次のように、左右の脳の機能に合わせて図や文字を配置すると、聴衆にとって心地よく見え理解しやすい「良いプレゼン」になるそうです。図形・グラフ・画像等は「(聴衆にとって)左(の視界)」(右脳担当)に配置。文字や文章は「右(の視界)」(左脳担当)に配置。

第3として、心臓が身体の左側にあるため、左回りに動くのが自然な動き、という理由もあります。心臓が左側にあるため、身体の左側のほうが若干重く、左側に身体を傾けたほうが楽になり、左回りのほうが歩きやすいということです。その発展形として、「左にある心臓を守るために、左半身を内側にし、右半身を外側にするように『左回り』に歩くのが自然な動きとなる」という説明もあります。いずれにしても、人間の自然な動きに合わせて、心地よくショッピングを楽しんでもらいたくさん買ってもらうために、動線を左回りに設計するということのようです。 

なぜ、陸上のトラックも「反時計回り」?

これに関連して、陸上のトラックで、なぜ反時計回り(左回り)に走るのか、という説明もあります。一つの回答が、「左回りだと、心臓に対する遠心力による負担を少なくなる」というものです。

遠心力とは、円の中心から遠ざかる向きに働く力。仮に右回り(時計回り)だと、円の中心に対して心臓が一番外側になり、遠心力がもろにかかるということでしょうか。逆に、左回り(反時計回り)なら、右半身(側面)に遠心力がかかり、心臓の負担が軽くなる、というわけです。

ディズニーランドの動線は、「反時計回り」それとも「時計回り」?

さて、(確定的な理由はないようですが)人間にとって「自然」に感じられる「反時計回り」(左回り)の動線は、東京ディズニーランドでも採用されているのか否か、とよく話題にされます。

東京ディズーランドの地図を見ると、まず、パークに入って左に「過去」をテーマとするアドベンチャーランドがあります。奥に「現在」と「空想世界」のファンタジーランドが配置され、右側に「未来」のトゥモローランドが位置しています。

ディズニーランドの入り口から、過去、現在、未来の順で歩くと、「時計回り」(右回り)になります。実際、「時計回り」(右回り)に、過去、現在、未来の順に歩くゲスト(入園者)も少なくないようです。

さらに「ビッグサンダー・マウンテン」や「スプラッシュ・マウンテン」が、入り口から見て左側に設置されています。それらが、ゲスト(入場者)の左側の視界に入り、そちらに向かって、時計回り(右回り)に歩くように誘導されているようにも見えます。

 ここで、レジャー産業の専門家、桜美林大学・山口有次教授(https://studyhacker.net/anti-clockwise)の見解を紹介しましょう。山口教授によれば、東京ディズニーランドは、意図的に「過去」、「現在」、「未来」のエリアを配置し、(人間の習性で)ともすれば反時計回り(左回り)に移動する傾向が強いゲスト(入園者)に対して、「時計回り」(右回り)で移動するように誘導しているそうです。その結果、時計回り(右回り)をする人と、(自然に)反時計回り(左回り)をする人とにバランスよく分散され、混雑緩和に役立つということのようです。

ちなみに、東京ディズニーシーも、「時計回り」(右回り)で進むと、「トイ・ストーリー・マニア!」や「タワー・オブ・テラー」などの人気アトラクションにすぐに到着できるそうです。ここでも、自然な反時計回り(左回り)の人流に対して、あえて、時計回り(右回り)の人流を作り出して、混雑緩和を図っているのかもしれません。

以上説明してきた「動線は反時計回りが好ましい」というマーケティングの鉄則を、ディズニーランドと同じように逆にとる事例がほかにもあります。たとえば、「店舗での滞留時間が長くなると消費額も増える」という別のマーケティングの鉄則を利用し、あえて、顧客が歩きにくい「時計回り」(右回り)に誘導して滞留時間を伸ばして売上増を狙う戦略があります。

また、一般的に、お化け屋敷などは、「時計回り」(右回り)の動線が採用されているケースが多いといわれています。入場者に対して、(恐怖感につながる)「違和感」を無意識に感じさせるためのようです。お化け屋敷の「怖さ」が増せば、それが評判になって、最終的に入場者数が増加します。

このように、売上増のためには、「動線」の設計は、とても重要なファクター(要素)なのです。


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