携帯端末事業の海外市場からの撤退
海外の携帯端末事業は、ハチソン３Gも中国市場も結局は思うように立ち上がらず、iモードも爆発することはなく、利益を稼げるのは国内市場だけとなり、海外のビジネスからは撤退となりました。日本の成功体験は却って皆が成功体験に寄り掛かる分、厄介でした。日本と海外のiモービジネスは、iモードという名前は同じでもビジネスモデルは全然違います（第57回ご参照）。日本で売れている商品は海外でも売れるというのは非常に短絡的な考え方です。市場も商習慣も違うからです。我々がまず考えないといけないのはビジネスモデルをどうするかだと私は思っています。
結局、私の所属していた海外モバイルターミナル営業本部は解散となりました。プリンタ、ファックス、ディスクドライブなど量販商品が海外ビジネスから撤退する中、携帯端末は有力な量販商品でしたが、この撤退は量販事業にとっては大きな灯が消える出来事でした。
Mission impossible!?
海外向けの量販商品が減る中、私は人事異動でパソコンとサーバービジネスを担当することになりました。NECのパソコンは、日本で98シリーズが爆発的に売れ、一時は50％以上のシェアを確保していましたが、その後WINDOWSのOSの普及とともにシェアを落としました。とはいえ、日本でのシェアは2006年頃でもトップシェアでした（20％レベル）。一方、海外のパソコンは、アメリカのパッカードベル社を買収し（1996年）、パッカードベルNECとして活動していました。しかし、2000年に北米市場から撤退し、社名をNECコンピューターズに変更。欧州、アジア・大洋州地域の一部、チリに販売し、本社はフランスのパリ郊外、生産拠点はアンジェに構えて活動を継続していました。
激しい競争のPC市場において、NECコンピューターズはフランス市場で10％レベルのシェアを確保。サーバーは大手法人顧客向け販売が奏功し、それなりにがんばっていました。ただ、残念なことに赤字会社でした。海外においてPC事業を抱えて黒字にするのは至難の業で、海外ユニット長の常務からは、「このプロジェクトは黒字化をめざすが、Mission impossibleだろう」と言われました。プロジェクトはIT事業部系の専務直轄で取り組むことになりました。専務はサーバー事業で日本市場を席巻した実績の持ち主でした。その下に専任要員として2人（私と部下）、それを予算管理系から３人が兼務で入り、また、私の上司（事業部長）も兼務で入りました。
フランス出向を断念
仕事は毎月のようにパリに出張し、NECコンピューターズのタジェ社長以下と黒字化へ向け侃々諤々の議論をしました。やるべきことをクリアに決めて、すぐに実行に移しました。専務直轄のプロジェクトですので、決断、実行は早かったのです。しかし、肝心の業績は苦戦続きでした。専務直轄のプロジェクトは2年の時限でしたが、あともう少しのところで黒字には届かず、最終的にＰＣ事業撤退の決断をせざるを得ませんでした。
この間、パリへの出張が続き、フランス出向の話が出ましたが、子どものことがあり、断らざるを得ませんでした。タジェ社長を解任し、リストラ遂行とサーバー事業再立上げのため、ドイツ、イタリア、スペインの現法を経験した私の２年下の後輩が社長で赴任することになりました。私の部下も彼を支えるべく出向となりました。フランスの労使対応はたいへんでしたが、出向した二人の踏ん張りと日本からのサポートで何とか遂行できました。
パリの豊かな香り
結局、MissionはImpossibleとなってしまいました。悔しかったですが、専務直轄のプロジェクトチームでてきぱきと仕事できたのは楽しい経験でした。また、パリでの休日にはルーブルやオルセー美術館を訪問し、すっかり絵画が好きになりました。また、パリはマレ地区、カルチェ・ラタン、15区、16区他いろいろな顔を持っていて、とても魅力的な街でした。私の訪れた都市の中ではパリと東京ほどいろんな顔を持った都市はないのではないかと思うくらいです。
出張の帰りは、だいたい金曜日のパリ発夜行便（21時発）が多かったので、17時に仕事を切り上げ、その足でルーブル美術館に直行。大好きなムリリョの「聖母像」をさっと観て、シャルル・ド・ゴール空港に向かうこともありました。ルーブルには1時間もいないのですが、ムリリョの聖母像に会いたい一心でした。ミッションは達成できませんでしたが、パリの豊かな文化の香りがリストラで生臭い空気を清浄してくれた感がありました。
