ビジネスを極めるために飛び込んだ未知の世界

私は実家近くに空港があったことから、子どもの頃から飛行機に乗る仕事に憧れていました。夢が叶って、大学卒業後にシンガポール航空のCAとして働きました。CAの仕事は毎日飛行機に乗れる、まさに最高の仕事でした。しかし、華やかな一面を謳歌する一方、このままでいいのだろうか、と自問するようになりました。
結婚、出産という人生の大きなイベントを迎え、その後キャリア復帰を果たしますが、いばらの道でした。文学部出身でCA、一般企業には強みとは考えて頂けませんが、運良くアメリカ系ベンチャーキャピタルの金融企業に職を得ました。いわゆる一般職で入社しましたが、プロフェッショナルになるには知識的に大きな壁を感じました。そこでとにかく勉強をしないといけないと思い、思い切ってMBAに挑戦しようと決意しました。MBAの1年間は、大学受験以上に必死で勉強しました。MBAは経営のジェネラリストで、「全体を俯瞰する力」、「分析力」、「論理的思考力」は、今でも活かされています。実は、実家が八百屋で、しがない零細企業の経営者ですが、自分自身も気が付いてみたら、いつもビジネスオーナーという立場の発想をしていたように思います。

“英語+α” 自分自身を突き動かした熱い思い

私がMBAを取得しようと思った、もう一つの理由は、英語をただ話せるだけでは駄目だという思いがあったからです。現在、准教授として教壇に立っておりますが、学生によく次の言葉を引用し、伝えていることがあります。”You know HOW to speak in English. But you don’t know WHAT to speak.” になってはいけない!と。つまり、英語を話せるだけではなく、英語を使って何を伝えるのかが重要であるということです。自分の興味を追求し、専門性を磨いて、英語+αを身につけて欲しいと思っています。私の場合は、それが経営学でした。学部時代は、経済や経営は、自分とは関係のない世界だと思っていました。しかし、MBAを取得してみると、それまで「女性が経済のことなんて興味なくて当然」とばかりに無関心だった自分を恥ずかしく思いました。世界を動かす経済の力の凄さに驚き、そして毎日の生活を左右する経営の影響力を認識し、パズルのピースがはまっていくような感覚がありました。

証券会社で学んだ、プレゼンに一番必要なもの

私が今までに一番プレゼン力を求められたのは、日系証券会社のロンドン駐在員事務所の所長をしている時でした。日系企業がロンドン証券取引所に株式公開し、資金調達をする際に、当時、私は日系企業を、イギリスの機関投資家に引き合わせ、事業計画書(ビジネスプラン)をプレゼンし、投資を引き込むという仕事をしていました。この機関投資家の中には、ゴールドマン・サックスや、当時はリーマン・ブラザーズもいました。こうした1件に何百億円という規模の投資を行うような機関投資家へのプレゼンの場に何度も立ち会ったのですが、その時に感じたことがあります。それは、プレゼンで何よりも大切なのは、流暢な英語ではなく、もう一度話を聞きたいと思わせるプレゼンター(経営者)の魅力と熱意です。どんなにきれいな話をして、必要な情報を全て網羅し、完璧にプレゼンを終えたとしても、何を伝えたいか分からないような、聞き手に何も「残らない」と、よいプレゼンとは言えないと思います。投資家たちに強烈な印象を与えたのは、ある日系中小企業のタタキ上げ社長さんでした。彼は、プレゼンが始まる前はどこか斜に構えて目つきも悪く、投資家に悪印象を与えかねないと私も冷や冷やしましたが、プレゼンに入り自分のビジネスの話をし始めたら、目を輝かせ、どれだけビジネスに真剣に向き合っているか、そして事業の成長性、調達する資金の使途と有用性、さらに投資家のメリットなど、ベタなジャパニーズ・イングリッシュで熱く語り、話に皆を引き込んでいきました。熱意が伝染したのだと思います。

聞き手と作り上げるプレゼンを目指して

私は、プレゼンはある意味一つのエンターテイメントだと思っており、そこには表現力が求められます。また、聞く側の反応も大きくプレゼンに影響を与えます。聴衆の反応が良ければプレゼンターもノッてきますし、反応が薄いとプレゼンが失速する可能性すらあります。その意味で聞き手の視点も、一つ重要な要素になります。聞き手に納得して「へー、なるほど!」と思ってもらうには、熱意をもった「定性的なアプローチ」とともに、データに裏付けされた「定量的なアプローチ」を必ず2つセットにして話すことです。さらにプレゼンの内容を完全に自分の中に落とし込み、伝えたいポイントを明確にし、効果的な伝え方を実践することです。スライドを使う場合は、1スライド1メッセージにして、伝えたいポイントの混乱を避けます、盛り込みすぎないように。そしてデジタル時代の現代ですから、画像や動画、アニメーションなど訴えるものも効果がありますが、多用すると中身が空洞化し、陳腐化しますので気をつけてください。
このように、面白いプレゼンを作り上げるためには、トピックに関しての膨大な事前調査とマテリアルの準備、リハーサルなどが必要になります。しかし、それを作り上げるために費やす時間とやり遂げるコミットメントは大学時代にしかできない、ある意味贅沢な時間で、そこに今回のコンテストの大きな意味があると思います。時には回り道をしてもいいんです。試行錯誤しながら、時には間違い、時には驚きの発見をし、英語プレゼンに一歩踏み込んでください。海外の学校にはPublic Speakingという授業があり、幼い頃から人前で話す機会が多い国もあるそうですが、日本では人前で話す機会がありませんし、できれば人前で話したくない、と思われる方も多いのではないでしょうか。実は、私もその一人ですが。恥ずかしいという気持ちは誰にでもあるものです。しかしそれを乗り越え、是非本番で自信を持って、思い切ってプレゼンをしてください。きっと、今までとは違う景色が見えてくるはずですよ。