「My name is….」から始まったプラットホームづくり

2019年のラクビーワールドカップが日本開催に決定するまでの道のりは、それなりに長かったです。ラグビーはもともとイギリス発祥のスポーツで、その後ヨーロッパ、オセアニア、南アフリカを中心に発展していきました。彼らの国同士では、それぞれネットワークが出来ていて、お互いが電話1本で話ができる関係にありました。そういう基盤がない中に、いきなり日本から出かけて行って、名刺を出して「My Name is Koji Tokumasu.」といったところで、「あなたはどこの誰?」と思われる状態からのスタートでした。
これまでに日本もワールドカップには出場していましたが、出ては負けていたので、彼らの印象になかった。なかには、「日本でラグビーをやっているのか」と聞いてくる人さえいました。それを払拭するために、まず、“私たちもみなさんと同じくらいラグビーを愛しています!”と伝えていくことから始めました。まずは彼らと対等にコミュニケーションが出来る前までのプラットホームをつくり、そこからやっと本題に入っていける環境づくりをしました。

日本、アジア、そして世界へ

招致活動の際、日本という国は、彼らにとって未知の国なので、彼らがどう日本を見ているのか、彼らが期待している日本はどういうものかを見出すことから考えました。私たちは招致のテーマに「Tender for Asia」を掲げました。限られた国でしかやっていないスポーツをアジアで普及させることが、ラグビーの国際的な発展をもたらすことにこだわったプレゼンテーションをしました。日本開催をきっかけに、世界の60%の人口を占めるアジアに、そして世界に普及させるんだと。結果的に、クローズドなスポーツのラグビーを世界に広げるというワールドラグビーとのビジョンとも繋ることが、日本招致の成功につながったのだと思います。

チームスポーツと個人

“チームスポーツ”と聞くと、チーム全体で成し遂げるという考えがあるかもしれません。ところが、海外でプレーをすると、その違いに気付かされます。彼らが思うチームスポーツは、チームではなく、まずは一人ひとりの選手の努力。試合が終わってロッカールームに帰ってくると、フォワードの選手が「今日の試合は僕がいたから勝ったんだ」といい、その隣では別の選手が、「いや、僕がいたから勝ったんだ」と議論が始まります。「自分がいたから勝ったんだ」と言い切れる人が集まったら、とても強いチームになりますよね。ですが、彼らはどうして、ひとつの“チーム”になれるのでしょうか。それは、お互いを理解するためのコミュニケーションを大切にしているからです。何も言わなくてもわかるようなあうんの呼吸のプレーではなく、はっきり口に出して言うことで、お互いを知り理解し合えることでうまれるコミュニケーションを活かしたプレーが、強いチームを作っていくのだと肌で感じました。

プレゼンは言葉を超えた会話

スポーツでは、コミュニケーションが大切だと言いましたが、これはプレゼンテーションにも言えることです。プレゼンターは、あるテーマを持ってステージにあがりますが、必ずしもオーディエンスがそのテーマに興味を持っているとは限りません。「私はこんなにいいアイディアを持っているんです!」といくらいっても、オーディエンスが冷め切っていては通じません。プレゼンテーションは、例えると、オーディエンスと一緒に旅に出て、旅から帰ってきたときに、その体験を一緒にシェアできるようなもの。こちらが何か提示をしたら、それに対して相手はどんな反応をするのか、どんな表情で見返してくるのかを感じながら進めていく、いわば言葉を超えた会話をしているわけです。
つまり、プレゼンテーションで大事なことのひとつは、プレゼンターとオーディエンスとの距離をいかに縮めるかということです。わかりやすい言葉と情景描写を使って、「みなさん、どうですか?」という具合に、相手の心を近づける。プレゼンテーションは、得てして借りてきた言葉やロジックで話してしまいがちになります。誰かの借りものであったり、何かを代わりに表現するのではなく、自分の言葉、体験、人生観を反映させて、メッセージを自分のものにすることが大事です。「自分」という人間を、そこにしっかり反映させることが大切だと思います。