異文化理解の先駆者たち

第1回 古田暁神田外語大学名誉教授『異文化コミュニケーションの夜明け』

マニュアルが使えない現場で判断できるように
医学生はコミュニケーションを学ぶ必要がある

社会人向けの大学院の講座なので、学生は、看護師や薬剤師、医療ソーシャルワーカー、そして若手の医師などの医療従事者がほとんどです。ですから、医療に関する知識は私よりずっと持っています。しかし、知識に偏りがあって、文系の学生なら知っているようなことも意外と知りません。例えば、「コミュニケーションとは何ですか?」と聞くと、「対面の、言葉を使った1対1のやりとりです」という答えが返ってきます。でも、それだけがコミュニケーションではありません。言葉を使わない非言語のコミュニケーションもあります。ですから、学期の初めには学生の先入観を壊すことから始めています。

年を追うごとに実感するのは、医学部の学生にはもっとコミュニケーションという学問を教えたほうがよいのではないかということです。医学部生たちは、身体や病態生理学に関することはしっかりと学び、もちろん実習では患者さんとの触れ合いなども学びますが、学問としてのコミュニケーション理論はほとんど学ばないまま卒業し、臨床の現場に出ていきます。

医師の国家試験でも模擬患者を相手にして医療面接を行うOSCE(オスキー、客観的臨床能力試験)が導入されていますが、これにはマニュアルのようなものがあります。マニュアルでは、してよいこと、悪いことが明記されていますが、それでは応用が利きません。現場では最終的に自分で判断しなければならないのです。だから、医学生は、コミュニケーションの成り立ちや、それぞれの場面に応じたコミュニケーションの枠組みを学ぶ必要があると思います。

私の講義では、「こういう声かけをしましょう」とか「ジェスチャーはこうしましょう」といった具体的な方法は教えません。コミュニケーションを学問として教えているので、役に立たないことを学んでいると感じる学生がいるのも確かです。でも、コミュニケーションには必ずしも明確な正解があるわけではありません。そこは私にとっても、もどかしい部分ですね。

それでも、私の講義を聴いて、過去に医療現場でうまくいかなかったことが理解できたという学生が何人もいます。学問としてコミュニケーションを学んだことで、自分が体験したことがどういった状況だったかを理解でき、モヤモヤし続けてきたことに名前が付けられて、腑に落ちたというのです。(7/9)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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