異文化理解の先駆者たち

第1回 古田暁神田外語大学名誉教授『異文化コミュニケーションの夜明け』

異文化コミュニケーションと障害学の両方が
医学コミュニケーション学の土台となった

カナダはとても住みやすい国で、さまざまな面でアメリカよりも気に入りました。当時のカナダは石油による好景気で、今では考えられないような大量の移民を受け入れていました。この波に乗って、日系カナダ人になろうと思い、必要な書類をそろえ始めたのです。そんなときに、文部科学省のウェブサイトで、京都大学大学院の医学研究科で「医学コミュニケーション学」の講座を開講することになり、准教授を募集していることを知りました。

インターネットで見かけただけの情報で、大学内の様子といった内部情報もなかったのですが、とりあえず応募したんです。すると、京都大学から面接を受けに来てほしいと連絡がありました。半信半疑だったのですが、数日間だけ日本に帰国し、面接を受けました。そして、正式に採用となりました。本当に専門家を探していたのですね。

平成20(2008)年に医学コミュニケーション学講座がスタートし、京都大学での仕事が始まりました。この講座のコンセプトは、「医療と社会をコミュニケーションでつなぐ」というものです。医療の世界では、技術の進歩が急速に進む一方で、一般の人々とのコミュニケーションにおいて大きな隔たりが生じていきました。日本でも1990年代に医療者に対する不信感が募り、「医療崩壊」というキーワードが聞かれるようになりました。そこで期待が高まっていったのが、ヘルスコミュニケーションです。医療従事者や患者を主体とした「対人」のコミュニケーションです。

しかし、医療におけるコミュニケーションの問題は、さまざまな要因が絡み合って生じています。ですから、医学コミュニケーション学の講座では、対人レベルだけではなく、背後にある社会や文化の要因にも関心を寄せながら研究を行っています。講座では障害学も取り上げています。障害の当事者である私が、教員という立場で、医療や福祉を専門とする大学院生に、障害という現象や障害をめぐるコミュニケーションについて語ることの意義は大きいと感じています。

神田外語大学で出会い、オクラホマ大学の修士課程で理解を深めた異文化コミュニケーション。博士課程やその後の研究で探究した障害学。その両方が、医学コミュニケーション学の講座の土台となっているのです。(6/9)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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