神田外語グループのいしずえを築いてきた人々

第4回 アントン・グディングス神田外語学院第4代学院長『課題と向き合い、言葉を育む』

学校は教育の場だから、押し付けるのではなく、
若い人を導くのが大切だと思います。

30代の後半は、週に1回、神田外語学院で教えて、残りの日は釣りをしたり、遊んだりと自由な日々を過ごしていました。ある水曜日、学院に行くと、ちょうどその日は、スピーチコンテストの発表日でした。当時の学院では、すべての学生がスピーチコンテストに参加し、その成績が重視されていました。私は知り合いの先生に誘われて、コンテストの見学に行きました。

ひとりの女子学生のスピーチが行われていたときのことです。彼女は、「この学校は暴利をむさぼっている。高い授業料をとっていて、経営者はそのお金を何に使っているか分からない」と言うのです。スピーチの原稿は担当の先生が指導していたはずですが、彼女は本番で差し替えたんですね。

その会場には創設者である佐野公一先生や、佐野きく枝先生もいたはずですが、おふたりは英語が充分には理解できない。コンテストが終わると、教務の職員が、「あの生徒を指導した先生は誰だ?生徒も教師もクビだ!」と教員室に怒鳴り込んできました。

私は、他の教員と話をしました。なかには、「本当のことをスピーチして、クビになるんだから可哀想だよな」と言っている教員もいます。でも、誰も抗議する教員はいません。そんなことをしたら、自分までクビになると思っていたようです。私は学院長に会いにいくことにしました。

学院長室に行くと、佐野公一先生ときく枝先生がいました。私が、スピーチコンテストで学校を批判した生徒をどうするか聞くと、公一先生は「もちろん辞めてもらう。学校が気に入らないのなら、いてもしょうがないじゃないか」と言います。きく枝先生は黙っていました。

私は言いました。「学院長、辞めさせるのは得策ではないと思いますよ。学生も、教員もみんなあのスピーチを聞いています。学校は教育の場ですから、上から何かを押し付けるべきではない。若い人たちを育て、導くことが大切だと思います。それにまったくの根拠がないのなら処分も必要だが、聞くと学費が高いのは事実というじゃないですか」。こう言うと、公一先生は「うちは外国人の先生も雇っていて、金がかかる。だから学費が高いんだ。……ところで君は、教師をやって長いのか」と聞きます。私は「いや、臨時です。週に1回だけです」と答えました。

すると、きく枝先生が口を開き、公一先生に、「ねぇ、あなた。この件については家で話しましょう。だから、今日は何も決めないでおきましょう」と言って、私には「グディングス先生にはまたご相談することがあるかもしれません」と言いました。その日は、それで終わったんです。

翌週の水曜日、私はまた学院に来ました。私の机には「学院長室に来るように」とメモがありました。学院長室に行くと、きく枝先生がいました。きく枝先生は「言いにくいことを言っていただいて、本当にありがとうございました。先生がご提案してくれた通り、あの学生は残すことにしました。これから、きちんと理解してくれるように努力して、指導していきます」と言いました。私は、それを聞いて、「それはよかった、先生方もその判断は評価しますよ」と答えました。私は教員室に戻り、先生方に学校側の判断を伝えながら、「話してみれば、分からないわけじゃないと思うよ」と話しました。

その日のことだったと思います。授業が終わると、きく枝先生に「ちょっと、話があるから」と引き止められ、食事に行くことになりました。きく枝先生は、食事をしながらこう切り出してきました。
「先生、学院の職員になってくれませんか。あなたは、きちんと意見を言ってくれる。一緒に、この学校を望ましいかたちにしていってもらえませんか」
私は「残念ですが、お断ります」と答えました。きく枝先生は「なぜですか、待遇ならしっかりしますよ」と言いました。

私ははっきりと理由を言いました。
「公一先生はワンマン経営者です。決めたことには誰も反対できない。私はそういうところで仕事はしたくないんです」
この頃、私はもう40歳ぐらいになっていました。だから意見の合わない組織に自分から入る気持ちはなかった。それに、学校は教育の場です。経営者には経営者の判断があるかもしれませんが、教育機関ではあくまで教育的な考えが尊重されるべきだと思っていましたから。

きく枝先生は、「残念ですが、分かりました。また何かあったらよろしくお願いします」と言って、その話は終わりました。(3/9)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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