異文化理解の先駆者たち

第5回 クリフォード・クラーク『日本人とアメリカ人、その懸け橋として』

どちらかの文化に従わせるのではなく、
日米の文化が協調し、相乗効果を生みだすために

「P&Gでは日本に紙おむつの工場を建てることになった。神戸の近くの南二見という場所だ。実は、かなり気が重い。日本では11年もビジネスをしているが、まだ利益が上がっていない。ただ金を浪費しているのが現状だ。大阪にある本部オフィスでは、文化に関する非常に深刻な問題を抱えている。だから、神戸の工場を立ち上げるのに当たって、プロのコンサルタントを必要としている。経営戦略面でのアドバイスと戦術面での指導をしてくれる人物だ。救ってくれるのは、君しかいないというのが、我々の結論だ」

私は驚くばかりでした。「なぜ、私なのか?」と尋ねると彼はこう答えました。

「外国人学生の採用を通じて、君と一緒に仕事をしてきた。我々が選んだ候補者に対して、君は的確な評価をしてくれた。ぜひ君に伝えたいのだが、コーネル大学、スタンフォード大学での10年間に、何百人もの外国人学生を評価してもらったが、ただ1人を除いて、すべての学生はP&Gが求める人材だった。彼らは本当に素晴らしい働きをしてくれている。君には洞察力がある。文化を超えて働くということに対してね。どうか、我が社を助けてくれないか?」

私は彼の求めに応じて、提案書を作成しました。予算は55万ドルです。提案書は受理され、1980(昭和55)年5月、2年間のフルタイム契約を結びました。私は「クラーク・コンサルティング・グループ」という会社を設立し、大規模で長期間に及ぶ異文化マネジメントのトレーニングとコンサルティングを構築するために、日本人とアメリカ人の10人のスタッフを雇いました。プロジェクトが対象としたP&Gの社員は18人ずつのアメリカ人と日本人、そして社員の家族でした。

私たちは、文化の違いを仲介し、合意形成を支援し、仲裁を行い、日米の両言語の研修を行い、そして異文化間の新しいビジネス文化を構築していきました。目指したのは、どちらかの文化に従わせるのではなく、日米の文化が協調し、相乗効果を生み、そして効率的な経営と高い生産性を達成し、クライアントの満足を実現することでした。私たちはトレーナーや講師ではなく、ファシリテーターやコーチという立場をとりました。日本人、アメリカ人の社員に何をすべきかを教えるのではなく、全員が組織づくりという職務を通じて異文化を理解するために学ぶのです。私たちは、それぞれの業務で社員同士のコミュニケーションを懸命に後押しして、ともに「答え」を探していきました。(6/9)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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