異文化理解教育の先駆者たち

第10回 宮崎新名城大学准教授『人生を拓くコミュニケーションへの気づき』

神田外語大学の先生方から
批判的な見方を学んだ米国での日々

アメリカで学んだことの、もうひとつは批判的に物事を捉える力を養ったことです。留学したウェイン州立大学は、お世話になった方々の合流点で、神田外語大学の臼井先生や青沼先生もこの大学の出身です。僕が留学していた1年目には、青沼先生はサバティカル(長期有給研究休暇)でウェイン州立大学に来ていました。現在、神田外語大学で教えている田島先生(※5)は僕がウェイン州立大学に留学していた時の同級生で共著の論文も数多くあります。先生方はレトリックやディベートの専門家で、物事を批判的に見る力をお持ちでした。

例えば留学当初、National Communication Association(NCA)の国際学会でシカゴに行った時のことです。青沼先生と街を歩いているとアフリカ系の人が路上で太鼓を叩いていました。僕が何気なく「さすが、黒人ってリズム感がいいですね」と言うと、青沼先生から「育ちだよ」と返されました。「『黒人という人種はリズム感がよい』というのは固定的な見方だよ」と指摘されたのです。

僕自身の専門は対人コミュニケーションなのですが、神田外語大学在学中、そして留学時代の日常生活でレトリックの視点に触れられたことで自分の研究に深みを持たせられたと思います。人と人の間で生じるコミュニケーションを考察するには、意見や立場の強さや弱さに惑わされず、どのような構造でコミュニケーションが成り立っているかを考え続けることが重要です。そうすることで、現象を批判的に考察せざるをえなくなるのです。留学中の先生方との関係を通じて、批判的に物事を見る力を養えたのは大きな収穫でしたね。

平成23(2011)年9月、日本に帰国し、神田外語大学で非常勤講師を務め、「日本語ディベート」と「英語プレゼンテーション」を教えました。日本人の学生に教えたのはこれが初めての経験でした。並行して、博士論文を仕上げ、平成24(2012)年5月、博士号を取得して、7年間に及ぶ留学が終了しました。

東京の大学にはコミュニケーション学の教員はたくさんいたので、東京以外のエリアで親しみがあった名古屋で職を探し、名古屋外国語大学外国語担当の専任講師に就きました。外国人教員とともに、英語で授業を行う教員です。英語のネイティブではない僕が、他のネイティブの教員とともに日本人の学生を教えるのです。学生たちは、日本人の僕から英語の授業を受けることなど想定していないし、不満に感じていたかもしれません。でも、僕が英語で話せることが分かると学生は教員としての僕を受け入れてくれるのです。改めて、英語の持つ特権的な力を感じるとともに、留学中から感じていた「言語と自己の関係性」を強く考えさせられましたね。(5/8)

  1. 田島慎朗:現・神田外語大学国際コミュニケーション学科准教授
学校法人佐野学園:理事長室・いしずゑ会
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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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