異文化理解教育の先駆者たち

第2回 久米昭元立教大学特任教授『かつてない活動を展開し続けた異文研』

現実社会で起きている事例を提示し、
異文化コミュニケーションへの学生の関心を高める

日本企業で働いているアメリカ人たちは、日本的な経営を評価していたし、対応しようと努力していました。しかし、深層心理では矛盾を感じていたのです。まさに文化の違いです。マネジャーという権限を与えられているのに、「全体を考えてほしい」と言われて、自分の決定を覆される。リーダーが不在でも、みんなで話し合って方向性を決めようとする。満場一致で合意するのを目指すから終業時刻を過ぎても会議が延々と続く。アメリカ人はプライベートを大切にするので、「これでは妻に離婚されてしまう」と嘆いていたマネジャーもいました。ビジネスの現場、とりわけ意思決定の場面では、文化の違いによるコミュニケーションの衝突が現れることを具体的に知ることができたのです。

こういったアメリカの事例調査は、その後に神田外語大学で異文化コミュニケーションを教えたときにも非常に役立ちました。講義では具体的な事例としてアメリカに進出した日本企業で起きていることを話しました。学生は学術的な理論よりも、現実社会で何が起きているかを知りたがりますからね。外国語を学び、外国と関連する仕事に就きたいと考えている学生も多かったので、ケーススタディーには関心を持ってくれたと思います。私は実際に世の中で起きていることを調べることに力を入れるタイプの研究者だったので、そういった具体的な事例を学生に伝えられたことには意義があったと思いますね。

神田外語大学の異文化コミュニケーション研究所では広い視野で異文化コミュニケーションを捉えていました。この領域を日本の大学の教育科目として定着させるだけでなく、実際の社会でどのような現象が起きているかを広く伝えることが重要だと考えていたのです。ですから、研究所が主催する講演会でも、私たちの社会で大きな意味を持つビジネス分野の方々にも数多く登場していただきました。私も、同時通訳時代に出会った、住友化学工業の岡野光弥氏をはじめ多くの方々に講演を依頼し、国際ビジネスの現場で起きている異文化コミュニケーションの問題について語っていただきました。

話を1970年代に戻しましょう。昭和54(1979)年、私は日本に帰国しました。4月から名古屋にある南山大学の外国語学部で専任講師として教え始めました。後に神田外語大学の異文化コミュニケーション研究所を立ち上げ、所長を務められた古田暁先生に出会ったのはその時期のことでした。 (4/9)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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