神田外語グループのいしずえを築いてきた人々

第3回 フランシス・C・ジョンソン神田外語大学名誉教授『ELIのカリキュラムは進化する』

神田の学生たちは、あらゆる種類の英語を理解し、
使えるようにならなければならないのです。

私が来日した当時、日本の英語教育というのは、ずいぶんと貧弱でした。初代学長の小川芳男教授は、私を東京でトップレベルの大学に連れていってくれました。学生たちはLL教室で、単語と文章を繰り返していました。まるでロボットのように。小川先生は私に聞きました。「これよりも、マシなことはできますか?」と。「もちろん、簡単なことですよ」と私は小川先生に答えました。

大学が開学したとき、私は英米語学科の教授をしていました。開学から2年間の契約が終わろうとしていた頃、佐野隆治会長(当時は理事長)は私にELI(English Language Institute)を始めないかと相談してきたのです。私は、ぜひやりたいと引き受けました。私にとってはまたとないチャンスでした。私はコロンビア大学で「自立学習者」という概念を知り、ずっと研究していました。独立した機関であるELIであればその理論に基づいたカリキュラムが実践できると思ったのです。佐野会長も神田外語大学を他とは違う大学にするためにその実践を望みました。佐野会長は、「ぜひ、もっと日本にいてください。あなたとは同い歳です。私が生きているうちは、あなたには引退させませんよ」と言ってくれました。平成元(1989)年、ELIのプロジェクトがスタートし、私は神田外語大学に残りました。

ELIでは、まず教員を集めることから始めました。ぜひ、若くて優秀な教員を世界中から探してきたかった。候補者の条件は、大学で応用言語学の修士号を取得したばかりの人々です。彼らのなかには23歳ぐらいの人もいます。一方、大学には22歳ぐらいの学生もいる。そう、ほとんど年齢の差がないのです。同年代の教員とはアートや音楽、社会情勢の話ができます。私は残念ながら、ロックスターの名前も知りませんし、あまり興味もないですから。若い先生を集めて、同世代学生たちに引き合わせて、コミュニケーションを生みだすことが狙いだったのです。まあ、私がやるよりはずっとよいでしょうから。

修士課程を終えたばかりの人々は、プロフェッショナルとしてのキャリアをスタートしたいので、日本で教えることには関心が高い。毎年、世界中に行きましたね。ニューヨーク、ロンドン、南アフリカ、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランド。現地で広告を出稿し、採用したいと思った優秀な候補者には必ず、直接会いに行きました。その候補者に神田外語大学の学生たちを一生懸命教えようとする意思があるかを確かめたかったからです。

ELIの教員を探すために世界中を回ったのには理由がありました。日本の学校や大学では、「アメリカ人の英語の先生を採用したい」と言われます。しかし、神田外語大学の学生はアメリカ英語が分かるだけではダメなのです。あらゆる英語を理解できるようならなければならない。イギリス英語、オーストラリア英語、カナダ英語、シンガポール英語、そしてもっともっと多くの異なる英語をです。ジョークで、「必ずスコットランド人を雇って、スコットランド英語がどれだけ難しいか、学生たちに示そう」とELIのスタッフと話しました。スコットランド英語は、私たちネイティブにとってさえ、理解するのが難しいのです。たくさんの違う種類の英語を理解できる環境を創りだしていくこと、それがELIの役割であると私は考えました。

ELIの教員には、少々変わった契約があります。彼らはELIで学生たちに英語を教えることに加えて、研究が義務づけられています。研究のテーマとは、ELIの英語運用能力カリキュラムの開発です。国籍も、文化的な背景も違う、さまざまな英語のバックグラウンドを持ったネイティブの教員たちが共通のカリキュラムづくりに取り組む。だからこそ、ELIは進化し続けるのです。その進化に決して終わりはありません。
佐野隆治会長は、ELI教員たちの研究を惜しみなく支援してくれました。例えば、JALT(全国語学教育学会)のような学会に行ってみてください。神田外語大学の教員による発表はどこの大学よりも多いですよ。その理由?教員の多くが研究をしているからです。佐野会長が研究と発表を支援してくれるので、教員たちは海外の学会で研究成果を発表できるのです。教員たちが海外の学会でプレゼンテーションすれば、それは神田外語大学の名前を世界に宣伝することになるのです。佐野会長は、教員の研究を支援することが大学の教育の質を高めるものだと考えたのです。

世界的な評価が高まるについて、数多くの重要な大学が修士を終えた人々を神田外語大学へ派遣してくれるようになりました。ELIを始めた平成元(1989)年当時、ネイティブの教員は4人だけです。私が知り合いに声をかけて来てもらったぐらいでした。それが、現在では65名に上ります。毎年、教員の求人には200名から300名の応募が世界中から来るようになりました。

私はよく、佐野会長にELIの費用のことで相談に行きました。彼のオフィスを訪ねるときは、いつもお金の話ばかりなので申し訳なく思っていました。でも、佐野会長は、「ジョンソン、あなたはこのお金を自分のために要求しているわけじゃない。学生のために求めているのだから、気にしなくていいじゃないか」と言ってくれました。(3/6)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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