異文化理解の先駆者たち

第6回 ラリー・E・スミス『違いに対処し、信頼関係を築くために』

断りもなく、私の文章にバツ印を書くことなど、
絶対にすべきではなかったのです

イースト・ウエスト・センターで一緒に仕事をした学者たちは、さまざまな文化圏から来ていました。そこで学んだのは、英語がきちんと通じるからといって、コミュニケーションがうまくいくとは限らないということでした。

ひとつ例を挙げましょう。私には日本人の同僚がいました。あるとき、彼から相談を受けました。「レポートを書いたのだが、もっと良くしたいから批評と提案をしてくれないか」とのことでした。

私は彼のレポートを読み、「文章が長過ぎますね。導入部分はこんなに長くなくてもいいので、この部分を削りましょう」と言いました。そして、ペンを取り出して、削るべき部分にバツ印を書いたのです。

彼にレポートを渡しました。受け取った彼の様子がちょっとおかしいように思ったのですが、まぁ、きっと頭痛でも患っているのだろうと気にしませんでした。彼は一言もしゃべりませんでした。

何日も経ってから彼はこう言いました。

「あれからずっと、あなたのことを腹立たしく思っていました。私の文章にバツ印を書くなんて、絶対にすべきではなかったのです。『この部分を削除しましょう』と口で言えば済むことです。指で指せばいい。それなのに何の断りもなく、私の文章にバツ印を書くなんて……。あなたには悪意はなかった。それは分かっています。この件については、もう怒ってはいません。それでも、なぜ私が心を乱したかをあなたにきちんと理解してほしかった」

彼がこうやって説明してくれたので、私は状況を理解できました。彼の言っていることは筋が通っています。それでも、説明してくれなかったら、私は彼がなぜ怒ったかを理解できなかったでしょう。イースト・ウエスト・センターでの仕事では、こういった類のことが起きたのです。当時の私は、円滑なコミュニケーションをするうえで、英語を流暢に話すこと以上に大切なことがあるなんて考えもしていませんでしたから。(3/6)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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