異文化理解の先駆者たち

第6回 ラリー・E・スミス『違いに対処し、信頼関係を築くために』

世界にはさまざまな種類の英語がある
それを評価することが私の関心でした

イースト・ウエスト・センターで働き始めた当初から、異文化コミュニケーションに真剣に取り組む必要性を痛感していました。英語の視点から研究を進め、1981(昭和56)年には、『異文化コミュニケーションのための英語』という本を出版しました。当時から、私の関心は、国際言語としての英語の使用、そして英語の多様性や「ワールド・イングリッシズ」(World Englishes)を評価することにありました。

文化背景の違う人同士が英語で異文化コミュニケーションをするときに意識すべきことがあります。例えば、アメリカ人は日本人がコミュニケーションにおいて英語をどのように使うかを理解すべきです。日本人がドイツ人と英語でコミュニケーションをするならば、ドイツ人の英語の使い方を学ぶ必要があります。世界にはさまざまな種類の英語があり、英語でのコミュニケーションは国や地域によって大きく異なります。だからこそ、「ワールド・イングリッシズ」という具合に複数形で表すのが適切なのです。

ワールド・イングリッシズについては、1985(昭和60)年に研究誌を立ち上げました(※1)。この研究誌ではあらゆる種類の英語に光を当てました。インドやシンガポール、日本、中国といった国々の英語です。アメリカやイギリス、オーストラリア、ニュージーランドといった母国語として英語を使っている国々だけが対象ではなかったのです。

国際的な共通語として、「グローバル・イングリッシュ」や「グロービッシュ」といった種類の英語を推奨している人々がいます。しかし、そのような種類の英語など存在しないと私は信じています。明らかに英語は国際的なコミュニケーションで使われる頻度が最も高い言語です。でも、ある特定の種類の英語を、「これこそが世界的なコミュニケーションのための共通言語である」と位置づけることなど私には受け入れられません。

1940年代に「ベーシック・イングリッシュ」という人工的な英語も現れました(※2)。そういった人工言語を開発することは可能でしょうが、私には関心がありません。私は、人間が現実の状況で使う現実の言語に関心があり、人々の間に生じる相互作用を探求していきたいのです。現在、世界には多種多様な英語があり、人々はそれぞれの英語を使っているのですから。(2/6)

  1. ※ 1 “World Englishes-Journal of English as an International and Intranational Language” 共同発行者はブラジュ・B・カルチュ教授。
  2. ※ 2 BASICはBritish, American, Scientific, International, Commercialの頭文字から成る。
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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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