CULTURE

ブラジルのコーヒー文化

2021/12/09

ブラジルときいて皆さんが思い浮かべるのは何でしょう?サッカーやサンバ、アマゾンやカーニバルが有名ですね。食文化では、肉のかたまりをどーんと焼くシュハスコ(churrasco)は日本でも人気です。また、日本で食べられている鶏肉の約7割はブラジル産なんです。スーパーマーケットで産地を確かめてみて下さいね。お肉も魅力的ですが、ブラジルの食文化といえばやはり、コーヒーが最も知名度が高いようです。

 

今回は変わりゆくブラジルのコーヒー文化についてお話しします。

 

ブラジルの家庭の食卓に欠かせないのが、コーヒーがたっぷり入ったポットです。私はブラジルで調査中、路上市場で働く人のお宅で居候をさせてもらっていました。お世話になっていた家のお母さんは、朝起きるとまず、お湯を沸かしてコーヒーを用意します。甘くて濃いコーヒーでした。私は日本ではブラックコーヒーが好きなので、お母さんに一度、「私のは砂糖抜きにできるかな?」と聞いてみたことがあります。すると、「それは難しいわ」と困り顔のお母さん。淹れたコーヒーに砂糖を加えなければいいだけでは、と思ったのですが、なんとお湯を沸かす段階で砂糖をたっぷり入れるのがお母さんの作り方だったのでした。確かにそのほうが砂糖が溶けやすいですね。というわけで私も引き続き、毎朝甘いコーヒーをいただいていました。私の友人たちは、その甘いコーヒーにさらに砂糖を加えていました。

 

ブラジルのコーヒーといえば、甘くて濃いもの。小さなカップに入ったコーヒーをくいっと飲み干すと、カップの底にどろりと砂糖が溶け残っていることもあるほどです。家にお客様が来れば、まずは台所に常備しているポットのコーヒーを勧め、それを飲みながらゆったりと会話を楽しみます。私が調査をしていた路上市場(青空市場)で働く露天商たちも、家からコーヒー入りポットを持ってきて分け合い、仲間と時間を共にしていました。また、市場ではコーヒーや軽食を販売する行商人もたくさんいましたので、彼らからコーヒーを買い、憩いのひと時を過ごしていました。

【2004年撮影。コーヒー&軽食販売の行商人と会話を楽しむ露天商たち。ちなみに彼らが立っているのは車道です。】

 

「甘くないコーヒーなんて」とブラジル人がよく言っていました。もう一つ、ブラジルで一般的ではなかったのがアイスコーヒーです。つまり、「コーヒーは、熱く、甘く、濃くあるべし」というのがブラジル人的コーヒーの流儀だったのです。

 

「熱い、甘い、濃い」という条件は、この15年ほどで変化しつつあります。2006年にスターバックスとNespressoがブラジルに進出しました。当初はそれほど店舗数は増えなかったようですが、健康志向の広がりも後押ししたのか、主に都市部で店舗が増えていきました。それにともない、「熱い、甘い、濃い」とは異なるコーヒーの飲み方も広がります。ブラックコーヒーやアイスコーヒーが徐々に一般的になっていったのです。都市部では早い段階から広がっていきましたが、地方ではもう少し後のようです。私が調査をしている地域の人は、「私や友人がアイスコーヒーを飲むようになったのは5年前くらいから」と言っていました。「私の両親は冷たいのは飲まないけどね」とも言っていたので、若い人たちを中心に新しいコーヒーの楽しみ方が広がっているようです。

【サンパウロのおしゃれなカフェにて】

 

食文化は国によっても異なりますし、一つの国の中でも違いがあります。消費される食材が変わっていったりしますし、その飲食の仕方や場面なども少しずつ変化していきます。食文化の変化に注目すると、その国や文化の新しい一面が見えてきます。皆さんもぜひ、調べてみて下さいね。

 

文&写真 奥田若菜(ブラジル・ポルトガル語専攻教員)