CULTURE

迷信からみる世界

2021/11/04

外国のことをもっと知りたいと思ったとき、あなたは何を取っ掛かりに調べていきますか?

例えばブラジルをもっと知りたいと思ったとき、ブラジルの音楽や映画は最適な入口になりますね。ブラジルの歴史や現状、社会問題など、いろんなことが分かります。

また、ブラジル特有の植物や料理を調べて、ブラジル料理店に足を運んで未知の味を楽しんだり、レシピを検索して作ってみるのも楽しそうです。文化遺産を調べてみるのもいいですし、ネットのストリートビューを使って街を散策してみると壁の落書きからも気づきがあるかもしれません。

 

いろんな入り口がありますが、今回は「迷信」(言い伝え)からブラジルを覗いてみましょう。私がブラジルで調査をしていたとき、地元の人に興味深い迷信をたくさん教えてもらいました。人付き合いのための教訓や、身の安全の守り方などがありました。ここで4つ、ご紹介します。

 

1】身体に切り傷があるときは、豚肉を食べてはいけない。

「豚肉を食べると、傷口が腫れるから」というのが理由でした。

私が手に怪我をしているときなどは、「今日の夕飯は豚肉の予定だったけど、変えなきゃ!」とお世話になっていた家のお母さんが気遣ってくれたりしました。

 

2】風の強い日は窓際にナイフを置いておくと風が止まる。

この因果関係はよく分かりませんでしたが、これを教えてくれた方の息子さんは「風の強いときに窓際にナイフを置いたら、ナイフが飛んで怪我するよねぇ」と言っていました。確かに、余計に危ないかもしれません。

 

3】ハチドリの心臓を食べると、狩りが上手くなる。

子どもの頃に、パチンコ(ギャンブルではなく、石を飛ばす道具のほう)を使って鳥を狩っていたという人から聞いたお話です。ハチドリがいたらその場で心臓を取って食べていたそうです。鳥がもっと取れるようにと。ちなみに、現在は石で野鳥を捕まえて食べることは禁止されていますので、ブラジルに行ってもやらないようにしましょう。

【写真左:パチンコの材料/写真右:練習するわたし。なかなか上手く飛びません】

 

4】小魚を捕まえて食べると、泳ぎが上手くなる。

これも子どもの頃の話として語ってもらったものです。川を泳ぐ小さな魚を捕まえるとすぐに、その場で食べていたそうです。すばしっこい小魚の泳ぎのうまさにあやかろうとする迷信ですね。

ブラジルの迷信をいくつかご紹介しました。皆さんも外国出身の方に、出身地の迷信を尋ねてみましょう。きっと話が盛り上がりますよ。

 

もちろん、日本にもいろんな迷信があります。例えば、日本の子どもたちが信じる迷信に「ししゃもを頭から食べると頭が良くなり、しっぽから食べると足が速くなる」というものがあります。運動会の季節は、しっぽから食べる子どもが続出します。テスト前は頭から、でしょうね。

日本でもブラジルでも、都市部よりは地方や田舎のほうが迷信の数も多く、内容もユーモラスです。とある地方の大学で、大学生に地元の迷信を教えてもらったことがあります。大学生からは、日常生活で使われている迷信の話が次から次へと出てきました。3世代同居、つまり、祖父母と暮らしているという大学生が多い地域でした。

一方で、神田外語大学では「迷信はあまり知らない」という学生の方が多くなります。同世代でも地域差があるので面白いですね。

 

日本では、食器をお箸で叩くのはマナー違反とされています。迷信が豊富な地域で、「叩いてはいけない理由をどのように教わりましたか?」と聞いたところ、「悪い霊が来るから」とか「貧乏神が来て踊るから」という回答がありました。貧乏神が踊るところ、ちょっと見てみたい気もします。

私自身は「餓鬼(ガキ)が来るから」と小さい頃に母から教わったと記憶しています。が、母は言ったことを覚えていないそうです。真相はいかに。

食器をお箸で叩いてはいけない理由、皆さんはどのように聞かされましたか。

 

もう一つ、「夜中に口笛を吹いてはいけない」という迷信もあります。大学院生の頃、院生仲間と「なぜ」の部分に関して話が盛り上がったことがあります。

夜中に口笛を吹いてはいけない理由は、大きく二つに分かれます。「泥棒が来るから」と「蛇が来るから」です。私は「泥棒が来るから、夜に口笛を吹くな」のほうをよく覚えているのですが、引越しでいろんな地域に住んだので「蛇が来るから」も聞いたことがありました。皆さんはいかがでしょうか。

では、どういった地域にどちらの回答が多いのか。その分布はどういう法則なのでしょう。西日本出身者と東日本出身者で回答の傾向があった、というわけではありませんでした。気になったので、いろんな人に、「泥棒と蛇、どっちだった?」と聞き込みをしました。また、大学院ではいろんな地域の出身者がいたので、皆で分布の傾向を分析してみました。その結果、一つの仮説に行き当たりました。

が、ここではその仮説は披露しないこととします。まだまだサンプルが少ないためです。また、ぜひ皆さんに、「聞き込みをして、推測して、仮説に行き当たる」という過程を楽しんでほしいからです。仮説に行きついたら、ぜひ私にも教えてください。仮説に行きつくまでの過程を語り合いましょう。

 

今回は、ブラジルと日本の迷信をお話ししました。

ぜひ、あなたの好きな国の迷信を調べてみて下さい。

 

 文・写真 奥田若菜(ブラジル・ポルトガル語専攻教員)