異文化理解の先駆者たち

第9回 スターリング・M・プラタ『自立した学習者の育成が国の競争力を高める』

フィリピンのデ・ラ・サール大学の英語・応用言語学部で准教授を務めるスターリング・プラタ氏は、英語科目の試験や評価法に高い関心を持ち、研究と実践をしている人物です。彼女は、経済交流が進むASEANでフィリピンが経済的な成長を遂げるには英語力の向上が必須と考え、学生自身が自立的に学習できるようにする「ポートフォリオ評価」という手法に挑戦しています。その着眼点には神田外語大学が永年取り組んできた「自立学習者」の教育と高い共通性がありました。(構成・文:山口剛 / 写真:山口雄太郎 / 文中敬称略)

幼い頃から英語の本を読むことが好きだったスターリング・プラタは、ごく自然に英語を専攻するようになった。デ・ラ・サール大学の大学院に進学すると、「特殊目的のための英語」という分野を専攻した。プラタはこの分野を学術的に研究するとともに、仕事の現場で必要とされる英語を指導するために、カリキュラムを構築し、研修を行うプロジェクトにも関わってきた。

例えば、フィリピン航空とのプロジェクトでは、手荷物受取所に勤務するスタッフ向けに「苦情調整状」の書き方を研修した。旅客機の乗客が手荷物を紛失した際に、その処理に必要な英語の表現を指導していくのだ。

また、フィリピンは欧米に比べると人件費が安く、英語が公用語であることから、アメリカ資本の企業のコールセンターが数多くある。アメリカからかけた問い合わせの電話に、太平洋を越えたフィリピンにいるスタッフが対応するのだ。ある会社のプロジェクトに関わったプラタは、フィリピン英語とアメリカ英語の違いを徹底的に研究したという。

「フィリピン英語の問題は、主語と動詞の呼応です。主語が変わっても、動詞が変化しないのです。こういった問題の背景にはフィリピン特有の事情が関係しています。まず、フィリピンには読書の習慣がありません。情報の多くは新聞や本ではなく、テレビを通じて得ています。生活が苦しい親は、子どもに本を買ってあげられません。学校は予算がなくて、教材が十分にそろえられないという現状もあります」

学校での英語教育にも問題があるとプラタは指摘する。中学校や高校の英語の授業の多くは文法や読解、作文に多くの時間を割いている。一方で、リスニングやコミュニケーションの授業は後回しにされているのだ。高校では、非常に難しい文法を学ばせる英語教員もいる。

プラタは現在、大学で英語教員を養成するコースも担当しているが、「高校生たちは言語学者になるわけじゃないから、そんな難しい文法を教える必要はない」と指導することがある。家庭の読書環境、そして学校での教材不足や指導内容の偏りが、フィリピン人の英語能力を高めることを阻害しているとプラタは指摘するのである。(1/4)

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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