神田外語の未来 建学の理念に立ち返るために

グローバル・リベラルアーツ学部誕生前夜史1 前澤宏和 神田外語大学大学改革室課長『学部設立の現場から』

グローバル・リベラルアーツ学部では国際社会の課題に立ち向かうため、その本質を考えられる教養を養います。3つの領域から過去・現在・未来へと続く教養を学ぶことは、神田外語大学が追求すべき教育への回帰でもありました。(文中敬称略)

■ 英名に実現したい教育内容を込める

神田外語大学の英名は
“Kanda University of International Studies”である。
「外語大学」であっても、
“Kanda University of Foreign Language”ではない。

神田外語大学の設立が発案された1980年代初頭、日本はアメリカとの貿易戦争の真っただ中にあった。日本の対米貿易黒字は年々増加し、衰退する自動車産業の街、デトロイトでは反日感情が爆発し、日本車がたたき壊された。

「言葉は世界をつなぐ平和の礎」を建学の理念に、平和のための語学教育を実践してきた神田外語学院は、教養とコミュニケーション力、そして高い人間性を育てなければ世界の人々との懸け橋となる人材は育てられないと考え、大学設立に動き出した。当初は「神田異文化コミュニケーション大学」と名付ける考えもあったが、「前例がない」と文部省(当時)に一蹴され、「神田外語大学」という名称に落ち着いたのである。

しかし、佐野隆治(佐野学園第3代理事長)や古田暁(異文化コミュニケーション研究所初代所長)といったリーダーたちは、新大学は外国語だけを学ぶのではなく、教養を学び人間性を高める大学であるという想いを“Kanda University of International Studies”という英名に込めたのである。


■ 専門が「教養」であることの意義

グローバル・リベラルアーツ学部(以下、GLA学部)の設置準備に携わる前澤は、この“International Studies”の教育を実現したいと考えていた。

「平和を構築するために必要な学び。それはスキルに特化した専門性ではないと感じました。複雑に絡み合う問題を理解し、関係する人々と深いコミュニケーションを図るための歴史観や人間性、そして行動力。表面的な知識を身につけるよりも、じっくりと深い教養を養った方が学生自身の目的を果たすために一見遠回りに思えて実は近道ではないかと思ったのです」

前澤自身もイギリスのレディング大学大学院に派遣留学した際に、教養の必要性を痛感した。

「大学院の教育研究科でリーダーシップ&マネジメントを学びました。授業は夜で、通っているのは現地の初等中等校などの先生方です。授業の基本はディスカッション。教育や社会の課題をテーマに議論し、クラスメートからは『日本の事例はどうなの?』と聞かれます。論文を出せば、教員からは『他に視点はない?あらゆる角度から検証し、そこから選択し自分の考えを導き出さなければ意味がない』と指導を受けました。とにかく、徹底的に考える力が求められたのです」

平和のための課題解決を目指すのであれば、関係する人々と対等な議論をする必要がある。相手と対等の思考力がなければ議論は成立しない。そして、文化や目的の異なる人々とある着地点を探すには、粘り強い関係づくりが必要となる。その基盤こそが教養なのである。


■ 過去、現在、未来を網羅する教養教育

GLA学部では「Humanities」「Global Studies」「Societies」という3つの領域から教養を学ぶ。

【図表:グローバル教養3つの領域】

「Humanities(人間と文化)」は、文学や宗教、歴史、思想など人間の文化的な営みについて学び、多様な世界観と価値観への柔軟な思考を身につける。

「Global Studies(グローバル・スタディーズ)」では、世界で起きている諸問題を理解し、解決する力を学び、国と国、国と地域が手を携えるための知識・教養を身につける。そして、「Societies(社会と共生)」は、グローバル化が進み、多様な人々が共生する社会の実像を知るとともに、科学技術によって生じる社会変容について学ぶのである。

「教養といってもさまざまな定義があります。文系と理系の両方を理解する力も重要ですが、人文科学系である神田外語大学では理系科目を特徴とすると設置認可が難しくなる。最終的には教員の発案で人文社会系の3領域によって教養をカバーすることになりましたが、結果として神田外語大学らしい特徴のある教養教育が確立できそうです」

この3領域は過去、現在、未来という時間軸で全ての時代をカバーできる、と前澤は説明する。Humanitiesは、人間の営みから発生した知恵を学ぶ「過去からの学問」。Global Studiesは現在起きていることにアプローチする「現在の学問」。そして、Societiesは現在を見定め、これから起きることを考えていく「未来への学問」であるというのだ。

神田外語大学が開学時に掲げた“Kanda University of International Studies”という英名が意味する学びは、GLA学部が打ち出した新たな体系の教養教育で体現されようとしているのである。


■ 理念に返る新学部が大学を活性化する

神田外語大学は令和2(2020)年4月現在で在学生4,160人である。外国語学部の単科大学として国内でも最大規模であるが、それは光と影の両方の意味を持つと前澤は指摘する。

「昭和62(1987)年の開学以来、徐々に定員を増やし、現在は1学年約1,000人の募集定員を満たし続けています。それは一定の評価をいただいているということ。しかし、安定して定員に達していれば、大きな『変革』をする必要はないのではという考えになりがちです。私は、GLA学部で斬新な教育に取り組むことこそが、社会の変化に適応しながら、大学全体を良い方向に変えられるのではないかと考えています」

私立大学が私立大学であるゆえんとは、国立大学にはできない人材育成の教育を実践することにある。その核となるのが建学の理念だ。だが、少子高齢化の時代に大学が建学の理念をうたう教育内容では学生は集まらないと考えられがちだ。本当にそうなのだろうか?

GLA学部はわずか1学年60人からのスタートである。規模は小さいけれど、そこに神田外語大学そのものが存在する意義と理想を実現する情熱が込められている。GLA学部が理念として掲げる教育を実現し、前澤が指摘する通り大学全体にその効果を波及させていったとすれば他大学にとっても参考事例となるはずだ。

建学の理念を体現するエッジの効いた学部を創設し、その意味が全学に広がっていく。GLA学部の挑戦は、私立大学全体にとっても重要な試金石になる可能性があるのだ。(第4話に続く)


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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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