2024年に神田外語大学大学院 修士課程日本語学専攻を卒業した坂内凛です。現在はスペインで日本語教師として活動することを目指し準備を進めています。この道を選んだきっかけは学生(学部)時代に体験した母国の歴史や文化を留学生やスペインで知り合った友人たちに紹介しきれなかった悔しさが基になっています。今回は自身の体験を紹介しながら、大学院進学を考えている卒業生の一助になれば幸いです。
スペイン語の勉強に熱中。たくさんの留学生に出会う
学部時代は、スペイン語専攻に所属し、毎日スペイン語の勉強に熱中していました。MULCやSALC*1に毎日のように通い、たくさんの留学生と知り合うことで、彼らともっと話をしたいと思うようになり、さらに語学の勉強にのめり込んでいきました。
2019年の春に短期研修としてキューバに1か月間ほど参加しました。そこで知り合った現地の人たちに、日本の文化や歴史についてたくさん質問されたのですが、満足に答えられず、悔しい思いをしました。もちろん、まだスペイン語をうまく話せなかったこともありますが、何よりも母国である日本の歴史や文化に関する学びの浅さが前面に出てしまいました。
キューバでの研修後、スペイン語の勉強の成果も出始め、ある程度の会話ができるようになり、内容の範囲が広がり始めると、スペイン語で日本語や日本の文化について教える機会も増えてきました。
しかし、留学生やスペイン語のネイティブから日本の歴史や文化について質問を投げられても、まだ回答に時間がかかる状態。私がスペイン語やスペイン語圏のことについて尋ねると、友人たちはその場で私にわかりやすいように説明をしてくれるのに、立場が逆転すると同じレベルで答えられない状況が繰り返されていたのです。
日本の歴史は、紀元前を含めると二千六百年以上という長い年月が経っており、幅広く調べて覚えたつもりでも、質問を受けるたびに答えられないことが悔しくて仕方がありませんでした。
*1 MULCやSALC いずれも神田外語大学の学習施設。MULC:Multilingual Communication Centerマルク。現地に留学する感覚を味わいながら、日常の言語と生活文化を学ぶユニークな空間。(https://www.kandagaigo.ac.jp/kuis/main/campuslife/facilities/mulc/)
ブリティッシュヒルズにて修士課程の皆さんと
これまでの学びをさらに深めるために大学院へ
大学3年後期から4年前期にかけての約半年間、学部の先生からの紹介をきっかけに、メキシコ・グアダラハラ大学の日本語センター*2のインターンシップに参加しました。仕事内容はオンラインを使った日本語の公開講座です。前半3ヶ月は現地の先生のサポートとして、後半はインターンに参加していた他大学の学生と2人で授業を行いました。
初級レベルのクラスだったため、スペイン語を交えながら日本語を教えていき、さらにオリジナルのコンテンツとして、毎回始めの10分間で1つのテーマを選んで日本文化を紹介しました。この時は「学んできたスペイン語を活かしながら日本語を教える」ということの楽しさを最も強く感じた瞬間だったかもしれません。
こうした経験を経て、日本語や日本文化について理解を深めてきたこともあり、教えることにも少しずつですが、楽しさを感じていたので、卒業後の進路は、これまでの学びをさらに深めようと大学院進学を選びました。
大学院では、新たなことを授業で学び、身につけていくというよりは、これまでの学びを応用し、さらに高度で専門的な部分にまで知識を深めていきます。常に疑問を持って授業に取り組むことで生じた疑問の中に興味のあるテーマを見つけ、それに対する仮説、課題と質問を考え、研究を遂行します。
修士研究を選ぶ際、どの研究過程も同レベルで大変だったこともあり、内容を絞るのは正直困難でした。本調査に使う最終的な研究方法を決定するまでに、何度も使用する研究材料や方法を見直したり、収集した作文データを統計処理したり、先行研究を踏まえて調査結果の考察を行いましたが、結論を出すための1つ1つの過程にかなりの時間を要するため、期限までにきちんと論文を書き終えることができるだろうかと、同級生と何度も話したほどです。
*2 メキシコ・グアダラハラにある公立大学、歴史が古く大規模な総合大学のひとつ。神田外語大学と共同で日本研究センター(Centro de Estudios Japoneses)を運営している。
ハバナ大学正門
設定したテーマをどのように研究していくかについて考えるには、膨大な数の論文を読み、研究に応用させるための知識を身につける必要があります。研究分野は日本語・日本語教育ですが、学術的な論文は英語で書かれていることがほとんどです。日本語や教育について高度で専門的な単語や表現を新たに学び、文献を全て英語で読むのは、学部時代に学んできた英語とは異なり時間もかかるのでとても苦労しました。
最終的に修士研究の対象を「スペイン語を母語とする日本語学習者」と設定しましたが、スペイン語圏の日本語学習者に焦点を当てた先行研究がほとんどないため、研究も手探りが続きました。ただ、オリジナリティがあるという点では良い内容となった一方で、スペイン語の知識を交えた研究の仮説を立てたり、考察したりすることは容易ではありませんでした。
神田外語の大学院生は留学生が多く、授業内外でのディスカッションでは、日本語学習者としての視点から意見が寄せられたり、研究の相談にのってくれたりと、コミュニケーションが欠かせませんでした。彼らがいなかったら、途中で心が折れていたかもしれません。
留学生とともに
日本でも海外でも、日本語や日本について学ぶ楽しさを届けたい
今後の目標としては、スペイン語を活かしながらの日本語教師を目指しています。子どもと関わることも好きなので、日本で暮らす外国籍の児童や、海外で暮らす日本の子供達の日本語指導にも興味があります。
どのような場所で携わっていくとしても、多くの学習者に日本語をはじめ、歴史や文化について学ぶことが楽しいと思ってもらえる、そんな教室づくりができる教師になれるよう、日々学びを深めていきたいと考えています。
卒業式にて(筆者:前列一番右)
2024年3月
神田外語大学院
言語科学研究科 博士前期課程(修士課程)
日本語学専攻修了
坂内 凜
神田外語大学院
https://www.kandagaigo.ac.jp/kuis/main/faculties/graduate/