神田外語大学同窓会

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土俵を広げることがキャリア形成の鍵

国際言語文化学科ポルトガル語専攻11期卒の吉村圭介と申します。まず初めに、本稿執筆の機会を頂いたことに感謝いたします。

現在、私は特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会に勤務しながら、同時に一般財団法人International Blind Football Foundation (以下IBF Foundation)のメンバーとして国際競技支援・海外の視覚障がい課題解決に取り組んでいます。学生時代からぼんやりと夢見てきたスポーツ業界、そして在学中に興味が湧いた国際協力、そんな二つが合わさった職場で日々働いています。

大学を卒業後、最初の約6年弱は駐日モザンビーク共和国大使館に勤務しました。ポルトガル語はもちろん、高い英語力も必須条件だったので、最初は躊躇しましたが、大学の先生からご紹介いただき、なんとか採用に至りました。今思えば、新卒で駐日大使館勤務(雇用はモザンビーク共和国外務協力省)とは、職歴としてなんとも波乱の滑り出しとなりました…。

自身の土俵構築

キャリア形成の中で私が重要視していることが「自分の土俵をどれだけ広げられるか」ということです。極端な言い方をするならば、自分の土俵で闘えることは当たり前ということです。外国語学部であれば語学力、法学部であれば法律の知識など、社会に出ると自分の専門分野は出来て当たり前と認識されていることが少なくありません。キャリア形成の中では、自分の土俵プラスαが重要であるということを社会に出て痛感しました。

それを一番肌で感じたのが、最初の職場である大使館に勤めていた時です。大使館では、上司や本国とはポルトガル語、他大使館や外務省、ドライバーとは英語、企業とは日本語と、各取引先に応じて言語を切り替える必要がありました。ポルトガル語専攻であった私は、ポルトガル語は出来て当然と認識されていましたが、それだけでは仕事は務まらず、英語力など他のスキルも必要でした。

本学のポルトガル語専攻は、英語とポルトガル語のダブルメジャーを推し進めており、私自身も在学中から、どちらか一方だけでなく双方のレベルを向上することを常に意識して勉学に取り組んでいました。自分の土俵をどちらか一方の言語に限定することなく、両方ともつぶしがきくように勉強した結果、大使館での採用に繋がったと感じています。

また、私自身の大使館での役職は経理・総務秘書ということもあり、数字を扱う機会が非常に多かったことも予想外でした。幸い、高校時代は理系コースで学んでいたこともあり、数字に苦手意識はなくスムーズに業務に取り組むことが出来ました。大学進学の際に理系から文系に転向していた経緯が、図らずも自分の土俵を広げる結果となり、キャリア形成に繋がっていたのでした。

経理だけでなく、ネットワーク関連業務や省庁とのやりとりなど、就職してから身に付けなければならない知識も数多くありました。小規模な大使館のため、各分野の専門家がいるわけでもなく、また「知らないから出来ません」では通用しません。自分に与えられた任務はなんとしても遂行しなければならない状況ばかりでした。そのおかげで、自分の領域を広げることの重要性、また新たな状況に対応する適応力も身につけることができ、それが自分の世界を押し広げてくれたのだと感じています。

人は結局一人では生きられない

人間関係の重要性に関しては、学生時代から常々意識していたのですが、経験を重ねるごとにますます実感するようになりました。特に、自分のキャリア形成がいかに周囲の助けによるものであるかを思い知らされています。

前職の大使館の仕事は大学の先生からのご紹介でしたし、現職の日本ブラインドサッカー協会も、学生時代に参加したスポーツ通訳ボランティアでの関わりがきっかけでした。通訳ボランティアでは、ブラインドサッカーブラジル代表に帯同する通訳のアシスタントを担当させていただき、パラリンピック金メダリストたちと仕事をするという、未だ学生でありながら非常に貴重な経験をさせていただきました。これまでの経験・人との繋がりが今に活きていると思うと、今後も更に多くの人と出会いたい、繋がりを広げていきたいと強く感じるようになりました。

ブラインドサッカーとの出会い

現在は、日本ブラインドサッカー協会に勤めています。視覚障がいのある人々がプレーするブラインドサッカーは、東京2020パラリンピックでも5人制サッカーという名称で競技種目として実施されました(現在のパラリンピック正式競技名は「ブラインドフットボール」)。

私は日本で開催される様々な国内大会に大会運営として携わっています。また、視覚障がいのある選手と共に、障がい理解のための授業を小学校で行うなど、ブラインドサッカーを通じて視覚障がいを学ぶ啓蒙プログラムも提供しています。

同時に、IBF Foundationという団体にも所属し、コーディネーターとして各ステークホルダーとの調整を行い、ブラインドサッカーの国際的競技発展、また視覚障がいの国際的援助のために、日々業務に取り組んでいます。

ブラインドサッカーは競技としてまだまだ発展途上であり、パラリンピック競技種目から除外される可能性も少なくありません。そのため、競技国の増加、各地域での盛り上がりが非常に重要です。IBF Foundationでは、競技途上国の視覚障がい支援団体やブラインドサッカー協会などに備品提供を行う助成プログラムを実施したり、国際大会運営の支援などを行ったりしています。

2022年は各大陸の選手権大会が開催される年でもあり、各国の現地運営委員会と協力をしながら大会を作り上げ、時には現地に赴いて業務を行うこともあります。様々な言語を使いながらの利害関係者とのやり取りは、困難ももちろんありますが、それ以上に大きなやりがいと充実感を感じます。業務を楽しみながらも自分の実力不足を痛感することが多々あり、その度に語学は終わりのない学びであると再認識させられます。

KUISに入学し、言語を本格的に学び始めた当初からなんとなく夢見てきたスポーツ業界、そして学生時代所属した国際NGO団体(Habitat for humanity)を通じて興味が湧いた国際協力、その双方を楽しみながら日々仕事をしています。そしてブラインドサッカーという新しい領域に足を踏み入れたことで、自分の土俵が広がっていくことにワクワクしています。

 

2016年卒業
国際言語文化学科ポルトガル語専攻
吉村 圭介

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