神田外語大学同窓会

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「見え隠れ」という言葉に導かれて新しい世界へ

同窓会の皆様、2012年スペイン語学科卒業の山本と申します。この度は縁あって「卒業生の活躍ブログ」への起稿という有難い機会を頂きました。多くの活躍されている諸先輩方のブログの中に並べていただいくのは恐れ多いことですが、私の経験を共有し、誰かの背中を押すお手伝いができればと思います。

「見え隠れ」という言葉をご存知ですか?

「見え隠れ」とは日本庭園にみられる造園法です。庭園の中を立ち止まったり、時には振り返ったりしながら、散策する様子を思い浮かべてみてください。日本庭園は、歩みを進めるたびに景色が移り変わり、どこからも全体像が見渡せないように設計されています。

見える世界と隠れる景色が相乗効果を生み、厳かで美しい庭園を作り出すと共に、一点からではすべては見通せない、という日本文化の奥ゆかしさを垣間見ることが出来る、日本庭園ならではの表現であり特徴なのです。

ちなみに英語では「Hide and reveal」と訳され、アメリカ人の間で日本庭園を楽しむ際の合言葉となっています。 見える世界、隠れる景色は季節や人それぞれの立ち位置、アングル、身長、価値観によって解釈が異なります。そこから生まれる会話やアイディアは尽きることがありません。

恥ずかしながら、私はこの言葉をThe Japanese Friendship Garden of Phoenixというアリゾナ州にある日本庭園に勤務するようになって初めて知りました。

現在、アリゾナで国際交流基金のJOI(Japan Outreach Initiative)プログラムのもと、日本文化を広める活動をしています。具体的には、庭園内のイベントの企画・運営等の補助、現地の高校での書道教室、大学内での日本流ビジネスマナー講座、フードバンクでの日本食に関するプレゼンテーション等、対象年齢やリクエストに応じて臨機応変に日本文化を伝えています。

それらに加えて、コミュニティ同士の関係強化のための活動も行っています。最近では、現地のアニメイベントグループを庭園に招待し、七夕イベントを行いました。地元のアーティストに七夕をモチーフとしたキャラクターのデザインを依頼し、アニメだけではなく日本の伝統文化も同時に発信できるように工夫したのです。

海外ということもあって、従来のしきたりに縛られず、自由に意見を述べることができる環境にいることを活かして、時折このようなイベントを提案させてもらっています。もちろん、よいことばかりではありません。充実した日々を送っているように見えますが、「結果=収益(数字)」という面では成果が見えづらく、苦悩することもありました。

しかしながら、気分転換に庭園を歩きながら、庭園のコンセプトである「見える世界、隠れる景色」があるということを体で感じ、頭を整理することで前向きに仕事に取り組むことができるようになりました。物事を一つの方向からだけで見たり考えたりするのではなく、本当の意味で多角的に視野を広げていく大切さをここアメリカで学んでいる気がします。

異文化理解のきっかけとなった大学時代のメキシコ留学

少し遡って、大学時代の話をしたいと思います。学生時代、多くのみなさんと同様、留学をしました。人生初の海外、飛行機一人旅、しかも留学先はメキシコ。当時は不安しかありませんでしたが、今では良い思い出となっています。

現地の大学の自由な雰囲気は勉強する環境として最適でした。食堂のタコスやスープは空腹を満たすだけでなく、味も最高で心も満たされます。(時々お腹を下しますが。笑)また、旅行で訪れた数々の遺跡や壁画は壮大で、古代文明の英知に圧倒されたことも鮮明に覚えています。

しかしながら、時間にルーズなメキシコ人には頭を悩まされました。いくら待っても来ないバスを諦め、走って授業に向かった結果、先生でさえ時間通りに来ていない、ということもありました。そのたびに、屈託のない笑顔であれこれ言い訳をする彼らの精神力に脱帽したことを昨日のことのように思い出します。

この異文化理解の本質を垣間見るような経験は、私を精神的に図太くしただけでなく、日本の良さを再発見するきっかけにもなりました。このような経験があったからこそ、日本についてもっと深く理解したいと思うようになり、まずは社会人として基礎を固めるために、日本で就職活動を開始。メーカーに入社し、担当地域の工場や会社に自社製品を売る営業マンとなって、仕事に励みました。おかげさまで、同期や同僚にも恵まれ、とても良い環境でのびのびと仕事ができていたと思います。

仕事が休みの時は日本各地を旅行しました。指宿の砂風呂の気持ちよさ、高知県の四万十川の透明さ、北海道の雪の軽さ等、南から北まで訪れる中、日本は魅力的で素晴らしい国であることを味わいました。そんな中、大学で学んだことを活かせているだろうか、このまま一生サラリーマンで終わる人生なのかという疑問が湧いてきて、悩みに悩んだ末、約4年勤めた会社を退職。

その後、アメリカに語学留学したり、カナダでワーキングホリデーをしたり、再度日本に戻ってきて外資系で仕事をしたりとかなり自由気ままな生活をしていました。その間も時間ができると国内外問わず旅に出て、様々な景色との出会いを楽しみました。

以前の自分であれば、あまりに無計画な自分の将来に一抹の不安を感じたかもしれません。また、大学時代、一緒に部活で汗を流し、旅行をしていた友人たちが結婚しパパになると聞いて、焦る気持ちが起きたかもしれません。実際、「隣の芝生は青く見える」と言い聞かせながらも、心のどこかで多少なりとももやもやした自分がいたことは否定できません。

けれども、「見え隠れ」という言葉と出会ってからは、そんな不安や焦りが消え、意識が変わりました。過去があるからこそ現在があるのだから、人とは比べず、自分だけの経験をもとに、歩みを止めずに、歩き続けよう。隠れる景色が引き立てる新しい世界へ挑戦し、自分だけのオリジナルな「日本庭園」を作っていきたいと思い始めたのです。

皆さんの「日本庭園」はどうですか。どこかでお会いした際はあなたの「庭園」をぜひ案内してください。

2012年卒業
スペイン語学科
山本 将大

https://www.joiprogram.jp/

https://www.laurasian.org/joi

https://www.japanesefriendshipgarden.org/

https://www.instagram.com/joiarizonamasa/

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