異文研キャンパス・レクチャー・シリーズ

第79回
異文研キャンパス・レクチャー・シリーズ

生きる条件としての「言葉」 詩人ローゼ・アウスレンダーの生涯と作品から 講師:長澤麻子 (立命館大学文学部准教授) 日時 11月15日(火) 17:00~19:00 神田外語大学 7号館2階 クリスタルホール 司会 ギブソン松井佳子
講演会報告(今千春、神田外語大学 非常勤講師)

講師の長澤氏は20世紀初頭のドイツの思想家を専門としており、本講演では旧ハプスブルク帝国出身のユダヤ人の女性詩人、ローゼ・アウスレンダーを中心に話が進められた。

本講演では、まず「言葉」について三つのポイントが指摘された。一つ目は「言葉と言語」、つまり、人間が言語とどのようにして身につけるかということである。二つ目は、「言葉の力」で、社会で生きる上で言語がどのような意味を持つかということを示す。例えば、自分が置かれた境遇が言葉を通して表現されるとき、その言葉はきわめて重要な意味を持つことになる。そして三つ目は「詩という表現」である。詩という言葉の断面を通し、私たちはその人の人生を見ることができる。すなわち、詩という表現は、そうした人間の人生が凝縮された言語の表現形態であるとされる。

こうしたポイントを踏まえ、講演ではローゼ・アウスレンダーの詩と言葉について、彼女の生涯をたどりながら考えていった。ローゼ・アウスレンダーの生涯を考えるとき、「異邦人性」というイメージがつきまとう。彼女は常に「異邦人」もしくは「共同体の外の人間」として生きていたのである。彼女には「ユダヤ人」「女性」「移民」という三つの点で異邦人性があり、これらが彼女の人生を大きく左右することになる。1900年代という時代、彼女は家族や政治的環境の変化により、住居や国籍を何度も変えなければならず、ヒトラーの時代にはゲットーでの生活も経験している。このような彼女の生涯をたどりながら彼女の詩を読むと、短い言葉の中に彼女の故郷への思いや社会に対する不安などさまざまな心情が表現されていることが理解できるようになる。

質疑応答では、ユダヤ人について、また言語と自分との関わりについて議論が交わされた。人間と言葉とは近い関係にあり、グローバル化した現代では、一人一人が自分の言葉を持っていることを理解することが重要だと最後に長澤氏は強調した。

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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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