異文研キャンパス・レクチャー・シリーズ

第30回
異文研キャンパス・レクチャー・シリーズ

「地雷除去に取り組む日本のNGOの挑戦」

講師
今鉾大介
(NPO法人「JAHDS=人道目的の地雷除去支援の会」)
司会
和田 純 (本学教授・異文化コミュニケーション研究所所長)
日時
2003年11月4日(火) 17:30~19:30 開場(17:00~)
場所
神田外語大学(千葉・幕張)
ミレニアムハウス
会場整理費
300円(当日払い)
講師からのメッセージ

20世紀は戦争の世紀と呼ばれ数々の悲劇を生み出しました。そして21世紀を迎えた現在でも、「負の遺産」として60カ国以上に1億個以上の地雷、その数倍の不発弾が残留し、20分に1人が傷つけられています。被害者以上に深刻な問題が、この見えない危険物による恐怖心のために復興が進まず、人々がもとの生活に戻れないことです。
地雷問題の現状、そして、世界と力を合わせ一刻も早く残留地雷・不発弾を除去する活動に汗と知恵を出して挑戦する日本のNGOの活動をご報告します。

講師紹介

Rutgers大学経営学修士課程卒。セコム株式会社入社。宣伝企画室、インターネットマーケティング室、戦略企画室等を経てJAHDSに出向中。

講演会報告
(奥島美夏、異文化コミュニケーション研究所)

20世紀は「戦争の世紀」とよばれるほど、さまざまな近代兵器を用いた世界的暴力が繰り返された時代であった。その負の遺産として、推定6000万から1億2千万個の地雷とその数倍の不発弾(手榴弾、砲弾)が、世界の60カ国以上に放置されたままになっている。これらの地域に住む人々は未だにその脅威から逃れられず、もとの生活に戻れない。今なお年間およそ24000人が死傷の被害を被っている。/p>

NPO法人「JAHDS」(ジャッズ、人道目的の地雷除去支援の会 http://www.jahds.org)は、軍事目的でなく人道目的からこうした地雷の除去を推進し、土地とその住民の生活を復興させる目的で1998年に設立された。国連、国際機関、NGO、被災地と連携しながら、東南アジア大陸部(タイ・カンボジアなど)を中心に、現地の人々がみずから地雷除去をできるようさまざまな後方支援をおこなう民間機関である。講師の今鉾氏は、企業の社会貢献としてJAHDSに参画する株式会社セコムから出向しており、この画期的な日本発NGOの挑戦について精力的に報告・講演をおこなった。

地雷は第一次世界大戦で開発された近代兵器である。地雷のおもな生産国は先進国・軍事大国54カ国であり、一方、被害国となっている国々はほとんどがアジア・アフリカに集中している。対人地雷、対戦車地雷など約60種類ある地雷の負傷・殺傷効果はもっとも無差別的かつ残虐で、その被害は被災者の家族までをもまきこんで半永久的に続く。さらに、戦時中の兵力をそぐだけでなく、その後も広大な土地が使えずに放置されることによって、国家全体の復興が遅れることにもなるのだ。1997年にようやくオタワ条約で対人地雷の使用・貯蔵などの全面禁止が決議され、日本も2002年には保有対人地雷の爆破処理を完了したが、この決議には肝心のアメリカ、ロシア、中国の3大軍事大国が参加していない。したがって、今後も戦争や紛争が続くかぎり、地雷被害者の総数も増え続けると考えねばならない。

こうした地雷被害が軍隊のみでなく一般市民にも被害を及ぼすのはなぜだろうか。カンボジアを例にとると、地雷は軍隊や戦車が通過する要路や最前線のみでなく、地方の村落部でも民家のまわりや水場といった人々の最も集まる場所、また病院や学校など戦時中は兵舎や病院としても使われる公共施設にも多く埋められている。これら各所で、地雷に対して無防備な人々が日々被災することにより、その後の看護医療のみでなく、生活支援のための金銭的な負担までもが地域社会や国家にのしかかり、水道・電気などのライフラインの復興も困難となる。さらに、国民の8割が農民であるカンボジアのような国では、生計の基本となる農耕や森林資源の狩猟採集までができなくなり、その被害は計り知れない。

地雷被害の支援には様々な活動がある。すなわち、(1)被害者の生活支援、(2)「踏むとどうなるのか」などを地域社会に指導する回避教育、(3)地雷の除去作業、そして(4)地雷の廃絶運動などである。このうち、JAHDSの中心的活動は第3番目の除去完了にいたるまでのプロセスにあたる。まず地雷の埋まっている地域へ先行調査者が現地へおもむき、被災者や元兵士へのインタビューから残留物の種類などを特定する。次に、こうした地域には正確な地図がない場合が多いため、空撮をおこなって航空写真から地域周辺の地図を作成し、これをもとに活動に必要な情報を整理する。ここまでが済むといよいよ現場へ入ることになるが、通行困難な地形や障害物の多い往路に適切な移動手段を用意しなければならない。現場へ到着すると、付近の草木をまず刈り取るなどして地雷処理活動がおこなえるように整える。こうして地雷探知がようやく開始されるわけだ。

JAHDSは路面下の空洞探査という日本のベンチャー技術を活用した地雷探知の開発にとりくんできた。従来地雷除去のためにつかわれていた金属探知機や、火薬のにおいをかぎ分ける「地雷犬」などには、地雷以外の金属にも反応する、雨季には活動できない、トレーニングに膨大な時間とコストがかかるなどの制約があった。こうした諸問題を解決するため、JAHDSの参加企業が共同で、材質によらず地中の物体を可視化する「有効な目」、すなわち新型地雷探知機「マイン・アイ」を開発した。2002年3月から導入されたこの画期的な方法を、従来の探知機や地雷犬と組み合わせることにより、作業の効率は大幅にアップしている。しかしそれでもなお、世界中に埋められた地雷を除去するためには、1000年という気の遠くなるような時間がかかるだろうといわれている。また除去に携わる現地の人々の安全も考えて、作業は慎重に進められなければならない。発見された地雷は信管を抜いて不活性化させるか、爆発させて処理する。一定の範囲が完全に除去されると、浄化された土地をどのように利用するかについてJAHDSと現地の人々とで話し合い、その要望をもとに学校の開設や井戸掘りなどの地域復興が推進される。

地雷の除去技術をはじめとする諸活動は継続され、次世代に引き継がれていかなければならない。外国語の習得や知識を海外でのボランティア活動に役立てたいと考える本大学の学生に対して、活動に関心をもつ若い日本人が増え、被災地と日本の間の架け橋になることもJAHDSのめざす目標の一つであることが講師から今一度強調された。

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法人本部広報部 渡邉公代
TEL:03-3258-5837

写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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