神田外語の未来 歴史的必然だった新学部誕生

グローバル・リベラルアーツ学部誕生前夜史1 前澤宏和 神田外語大学大学改革室課長『学部設立の現場から』

令和3(2021)年4月、神田外語大学では新たに「グローバル・リベラルアー ツ学部」を設置する予定です。本シリーズでは新学部誕生に至るまでの物語を 紹介していきます。第1回は新たな学部の設計と実現を実務面から支えた前澤 宏和です。(文中敬称略)

■ オンリーワンの学部をつくってくれ

昭和62(1987)年4月に開学した神田外語大学は、30年以上の歴史のなかで何度か大きな学科再編は行ってきたが、外国語学部の単科大学であることを貫いてきた。学生数は約4,000人に上り、単科大学としては国内最大規模である。

前澤は大学で法学を学んだ後、民間企業を経て、「世界で活躍する学生の教育に携わりたい」という想いから平成18(2006)年4月に学校法人佐野学園に就職した。文部科学省の「グローバル人材育成推進事業」の補助金獲得と事業推進を担当するなど、事務方として神田外語大学におけるグローバル教育の進化を支えてきた人物である。

新たな学部が設立される計画を前澤が知ったのは、イギリスのレディング大学大学院に派遣留学していた平成30(2018)年1月だった。

「日本にいたら新学部設立に関われたかもしれないと思うと少し残念でした。ただ、私なりに神田外語大学の新学部はどうあるべきかを考えました。漠然とですが『国際教養学部』しかないと思っていました」

前澤の考察は的中し、新学部設置準備を担う大学改革室では国際教養を軸とした教育内容の設計を進めていた。

同年12月、レディング大学で修士号を取得し帰国した前澤は大学改革室への配属となった。辞令を受けた後、前澤は、神田外語大学を経営する学校法人佐野学園の理事長、佐野元泰と面会した。佐野は前澤にこう言った。

「オンリーワンの学部をつくってくれ」

ただそれだけである。こうして前澤は、令和3(2021)年4月の設置に向けた新学部の実現に取り組み始めるのである。


■ 神田外語らしい国際教養学部とは

神田外語大学が新学部設置の準備に取り掛かり始めた平成29(2017)年度当時、国内にはすでに国際教養の専門教育をうたう大学が数多くあった(図表)。このほかにも「世界教養」「グローバル教養」「国際文化」といった学部も続々と設置されていた。

【図表:平成29年度時点の国際教養学部のある大学】

長年にわたり外国語教育を実践してきた神田外語大学にしか実現し得ない国際教養の学部を構築し、その学びを求める受験生を募集するにはどうしたらよいか。具体的な設計が経営陣と教職員の議論から生まれていった。

ポイントのひとつは留学であった。新学部では1年次の前期に約3週間の「海外スタディ・ツアー」に参加し、世界の現状を肌身で感じる機会を設ける。帰国した後は教養を専門科目として学び、3年次ではニューヨーク州立大学(SUNY)へ半年間留学する。初年次の留学によって世界の課題への問題意識を持ち、学びの意欲を駆り立て、教養を学んだうえで長期間の留学をすることで異文化の人々と渡り合い、ともに課題解決に向かう能力を養うのである。

もうひとつのポイントは、名称を「グローバル・リベラルアーツ学部」としたことだ。前澤は「国際教養学部」としなかった理由をこう説明する。

「“liberal arts”とは元来、奴隷制度からの解放において、人間性の自由を獲得するための素養です。その言葉には我々が考える『教養』という言葉で語り尽くせない深みがあります。受験生にはなじみが薄いかもしれませんが、その深みを表現するために、あえて『グローバル・リベラルアーツ学部』という名称にすると経営層が判断したのです」


■ 一人ひとりが思い描く平和のために

在学中2回の留学とグローバル・リベラルアーツ学部という名称も特徴的だが、この学部の他に類をみない特徴は“Global Liberal Arts for Peace”というコンセプトそのものにある。グローバル・リベラルアーツ学部は、学生一人ひとりが思い描く平和をグローバルな視点で実現するための力を培うために設置されるのである。

「新学部のコンセプトを“for Peace”に振り切るというアイデアは教員の発案です。そのひとりが阪田恭代教授です。国際関係論、とりわけ日韓関係が専門の阪田先生は、平和にはさまざまな捉え方があり、決して戦争の対極にあるものではないと会議で説明してくれました。私たちの社会に必要不可欠な『平和』を実現するために国際教養を学ぶ。教育の目標をここに集約できれば神田外語大学としての独自性を打ち出せると確信しました」

新学部設立に向けての準備が進むなかで浮き彫りになった「平和」というキーワード。それはまさに神田外語グループが創業以来、一貫して掲げてきた教育のテーマと一致するのである。


■ 受け継がれる”平和の礎”の理念

昭和32(1957)年、東京・神田にセントラル英会話学校が設立された。この小さな英会話学校は国内最大規模の英語専門学校である神田外語学院へと発展し、そして神田外語大学が生まれていく。

創業者の佐野公一・きく枝夫妻は、戦時中は軍需産業に従事し、東京で終戦を迎えた。戦後は貿易業や飲食業などの事業を営んでいたが、ふたりは二度と戦争を起こしてはいけないという信念を強く抱いていた。

そして、「外国人と対等に渡り合い、一緒に仕事をして、友達になれば、争い事なんて起きない」という想いから、終戦の12年後にセントラル英会話学校を設立。その後、神田外語学院と改名し、外国語教育と職業につながる実学教育を実践しながら、文化の懸け橋となる若者を育成してきたのである。


その想いを集約したのが「言葉は世界をつなぐ平和の礎」という建学の理念である。佐野公一・きく枝夫妻の長男であり、神田外語大学設立の陣頭指揮を執った佐野隆治(第3代佐野学園理事長)はこの言葉を陶板に焼き付け、昭和62(1987)年4月の大学開学時には大学本館のメインエントランスの壁一面に掲げたのだ。

佐野隆治は生前、こう語っている。

「大学は2年間の専門学校と違い4年間で言葉だけでなく、文化もきっちり学ぶ。何のために学ぶのか、建学の理念をはっきりさせないといけない。ぶれずに教え、ぶれずに学ぶためにね。毎日、目にすれば忘れないでしょう」

専門学校の設立から65年目、大学の開学から35年目に設置されるグローバル・リベラルアーツ学部は、その必然として「平和のために」というコンセプトを掲げた。前澤ら大学改革室のメンバーたちはその実現のために奔走するのである。(第2話に続く)


学校法人佐野学園:理事長室・いしずゑ会
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写真撮影:塩澤秀樹
取材・文:山口剛

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