仲代表の「グローバルの窓」

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第15回 “Café. Andiamo(カフェに行こう)“ ~エスプレッソなしなんて考えられない!~

2021.12.08

ミュンヘンとミラノの往復が半年ほど続いたあと、私は家族を連れてミラノへ引っ越しました、第4回に書いた「雪のアルプス越え」のブレンナー峠をドイツ側から車で越えての引っ越しでした。

実はこの引っ越しの前に、2度ほど車で必需品を先にミラノまで運んでいました。だから、ブレンナー峠は私には馴染みとなっていました。この峠は、かつてゲーテやモーツアルトがイタリアへ向かったときに越えた峠で、小塩節の『ブレンナー峠を越えて』によると、この峠を境に北と南の天候は180度異なります。すなわち、北のドイツ側はどんより曇り、南のイタリア側は晴れ渡っています。

イタリアでの生活をするにあたり、イタリア語は何もわからず、妻は第二子を身ごもっている状態で、不安はありましたが、イタリアでの携帯電話端末事業を立ち上げるには、実際にイタリア人といっしょにドイツから対応していた私が出向するのが自然でした。妻は、「あなたがやりたいならイタリアへ移ってもいいよ」と言ってくれ、その言葉に甘えてイタリア行きを決断しました。妻には感謝しかありません。また、ドイツの社長や同僚からも励ましや心遣いをいただいての赴任となりました。

出張とは違い実際に住んでみると、戸惑うことが多々ありました。まず、何よりもイタリア語がわからない。レストランに入ってもメニューがちんぷんかんぷん。ただ、イタリア料理は何を注文してもおいしく、ハズレがないので助かりましたが。

ドイツで左ハンドルは十分慣れていたので、車の運転は大丈夫だろうと高を括っていましたが、とんでもない。ミラノ市内に入った途端、車が増え、左右から私の車線に平気で車が入ってくるのです。いや後ろからもすっと入ってきます。怖くて車線変更もできず、どんどん抜かれました。イタリア人のあの縦横無尽に車線変更する運転は、一種の芸術だと思いました。ドイツのドライバーがいかに秩序正しい運転だったかが身に染みてわかりました。

家の近くの銀行に強盗が入ったときも驚きました。妻が震えていたので、同僚のイタリア人に、「イタリアはとんでもないところだ。銀行強盗が横行しているのか?」とクレームすると、「それでその強盗はうまくいったのか?」と聞き返される始末。いちいち銀行に強盗が入ったくらいで騒ぐなよ、と言わんばかりで、それどころかうまくいったかどうかに関心があるのです。これはクレームする方が間違いだったと思いました。

 イタリア人の同僚と初めてランチに行ったとき、食事が終わってオフィスに帰ろうとすると、“Café, Andiamo!”と言われました。「コーヒーを飲もう」と言うのです。ついて行くと、「バール」と呼ばれるところで立ったままコーヒーを飲みます。イタリアでは「カフェ」というと「エスプレッソ」のことです。小さなカップに一口で飲めるくらいの量しか入っていません。ところが、とても濃いのです。最初はよくこんな苦いコーヒーが飲めるもんだと思いましたが、1カ月もしないうちに、私もランチのあとにエスプレッソを飲まないとランチが終わった気がしなくなっていました。食事にピリオドを打つと言いましょうか。ある日、どうしても緊急の仕事があり、ランチのあとオフィスに急ぎ戻らざるを得なくなりました。ところが、エスプレッソを飲まなかったため、どこか気持がしっくりこない、落ち着かないのです。すでにエスプレッソにはまっている自分に驚きました。

イタリア人の同僚と日本に出張したときはもっと驚きました。ランチを終えたあと、エスプレッソの飲める店に行こうとしたところ、彼は「ノ」と言うのです。「えっ、エスプレッソなしで済ますの」と言うと、「違う、俺はエスプレッソマシンを持って来ているから、自分で淹れて飲むんだ」と言うのです。こだわる人はそこまでエスプレッソの味にこだわります。もはや死活問題だと思いました。

今では私も、コーヒーは「ネスプレッソ」マシンで淹れたエスプレッソです。少しはイタリア人に近づいたのでしょうか。しかし、あのイタリア人の同僚がいたら、「ネスプレッソのエスプレッソもちょっと違うんだよな。」と言うかもしれません。イタリア人はエスプレッソの濃い味のように人生を濃く堪能しています。

steaming cup of coffee with burlap sack and coffee beans on wooden table.

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