2025年、「Netflix」がリアル店舗事業「Netflix Houses」(ネットフリックス・ハウス)を新展開!
2023年10月16日の『フォーブス』(Forbes)誌は、ストリーミング業界の巨人Netflix社が、2025年に実店舗(brick-and-mortar store)をオープンし、新規事業として「小売業」(retail)に進出すると報じました。その実店舗の名称は『Netflix Houses』(ネットフリックス・ハウス)!
このNetflix Housesでは、顧客が、関連グッズ(マーチャンダイジング)を購入したり、食事を楽しんだり、遊んだり、交流したり、お気に入りの動画/番組を、シアター形式で鑑賞したり、Netflixの世界に「没入」(immersive、イマーシブ)できます。つまり「Netflix Houses」は、同社が制作する番組とファンとの間の絆を強めるための新たな「体験」を提供する没入型リアル店舗なのです。Netflix社は、2025年、最初の2店舗をオープンする予定です。
この「Netflix Houses」は、デジタルの巨大企業、Netflix社が、ウォルト・ディズニー・カンパニーのような総合エンターテインンメント企業に進化する重要な一手になると評価できるのではないでしょうか。
料理番組にインスパイアされたレストラン『NetflixBites』
さて、Netflix社は、こうしたリアル店舗事業への進出に関して、着実に布石を打ってきました。第1の布石が、同社初のレストラン『Netflix Bites』(ネットフリックス・バイツ)です。このレストランは、2023年6月30日に、米国ロサンゼルス(カリフォルニア州)にオープンした「ポップアップ・ストア」です。「ポップアップ・ストア」(pop-up store)とは、「期間限定の店舗」のこと。「突然現れるお店」というような意味を持っています。「bite」(バイト)には「軽い食事」という意味があります。
同レストランのメニューは、『Netflix』オリジナルシリーズの人気作品に登場する料理にインスパイアされたもので構成されています。毎回1人のシェフに焦点を当て、彼らの料理と人生に迫る『シェフのテーブル』(Chef’s Table)。「鉄人レジェンド」の称号を手にするため、トップシェフたちが伝説の鉄人シェフたちに戦いを挑む『アイアン・シェフ:レジェンドへの道』(Iron Chef: Quest for an Iron Legend)。そうした料理ドキュメンタリーシリーズに出演するシェフたちがディナープレートを再現。
『ドリンク・マスター』のミクソロジスト
また、料理のお供として、『ドリンク・マスター:究極のカクテルを考案せよ!』(Drink Masters)に登場したミクソロジスト(mixologist)たちによるスペシャルドリンクも提供。『ドリンク・マスター』とは、世界レベルのミクソロジストたちが、そのテクニックと独創性を駆使して、賞金10万ドル(約1,500万円)と「ドリンク・マスター」の称号をかけてカクテル作りの腕を競う番組です。
ちなみに、「ミクソロジスト」(mixologist)とは、野菜、果物、ハーブをミックス(mix)して、炎や液体窒素などを使用し、独自のアレンジを加え、新鮮かつ斬新で、誰も思いつかないようなオリジナルカクテルを創作する人々です。現在、米国のサンフランシスコ、シリコンバレー、ニューヨークなどの都市部を中心に、ミクソロジー(mixology)・カクテル文化が流行しているようです。 Netflix社は、この一時的なポップアップ・レストラン『Netflix Bites』を通して、物理的な小売事業や対面型イベント体験には、多くの可能性があることを発見した、と報じられています
ポップアップイベント『Only on Netflix』
第2の布石が、ポップアップイベント『Only on Netflix』です。2023年5月から6月の3週間にわたって、アジア初となる、この体験型ポップアップイベントが日本のキュープラザ原宿で開催されたました。世界的なヒット作「ストレンジャー・シングス 未知の世界」や、アジアで大きな話題を呼んだ「First Love 初恋」「今際の国のアリス」。Netflixのそうした人気作品の世界を体感するエリアや、作品内に登場するフードやドリンクを味わえるエリア、限定グッズの販売エリアなど、Netflixの世界が満喫できるスペースが再現されました。
今回、「Netflix Houses」事業が正式に動き出したことで、『Only on Netflix』のようなポップアップイベントのテストマーケティング的意義がより重要かつ明確になったといえます。
ラコステ、コカコーラ、そしてバスキンロビンズとコラボ
第3の布石が、マーチャンダイジング事業、つまり限定商品などのグッズ販売事業です。フランスのアパレルブランド「ラコステ」(LACOSTE)が「ストレンジャー・シングス」(STRANGER THINGS)シリーズを発売。さらに、ノンアルコールビール米国大手ブランド「アスレチック・ブルーイング」(Athletic Brewing)がファンタジードラマ「ウィッチャー」(The Witcher)の登場人物にインスパイアされたビールを提供。その最初のビールは、ゲラルツゴールド(Geralt’s Gold、「ゲラルトの黄金」)と呼ばれ、同ドラマに登場するアンチヒーロー、ゲラルト・オブ・リヴィア(Geralt of Rivia、「リヴィアのゲラルト」)にちなんだもの。
Netflix社は、前述の『ストレンジャー・シングス』第3シーズンのプロモーションのために75ものブランドと提携。その中には、「コカコーラ」(Coca-Cola)や、日本ではサーティワンアイスクリームで知られている「バスキンロビンズ」(Baskin Robbins)などの著名ブランドが含まれています。
『ブリジャートン家』体験型イベント
第4の布石が、2022年にスタートして「The Queen’s Ball: A Bridgerton Experience(女王の舞踏会:ブリジャートン・エクスペリエンス)」の体験型イベントです。『ブリジャートン家』(原題:Bridgerton)は、Netflixで配信される19世紀初頭のロンドンを舞台にしたNetflix製作のオリジナルドラマ。ロンドン社交界でその名を知られるブリジャートン家の8人の兄弟姉妹が、それぞれの愛と幸せを追い求める姿を描いたもの。
これは、チケット購入者が番組の登場人物のような衣装を身にまとい、番組の装飾の中にいるかのようなユニークな舞踏会を楽しむ没入型イベントです。チケット代は45ドル(6,750円)から85ドル(12,750円)。ニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンDC、シカゴ、サンフランシスコ、デンバーなどで開催されました。
以上のような布石が、2025年スタートのNetflix Houses事業の先手となり、同社全体としての新たな収入源であるマーチャンダイジング戦略の強化につながっているのです。
ディズニーのグッズ関連ビジネスの利益率は「53%」?
では、参考の意味で、統計情報サイト「statista」にもとづき、グッズ関連ビジネスの王様、ウォルト・ディズニー・カンパニーの状況をみてみましょう。同社には、ミッキーマウスのT-シャツ、「アナと雪の女王」のエルサの人形、(大人にも人気の)LEGOのスター・ウォーズなどたくさんの人気グッズが存在します。
2022年、同社は、「コンシューマー・プロダクツ」(consumer products)、つまりIPを様々なメーカー、ゲーム開発者、小売業者などにライセンス供与し自社ブランド商品を販売する事業で、53億ドル(約8,000億円)の収益を計上しました。これは同社の総収入の6%にも満たないのですが、同事業の営業利益率は53%と高く、2022年の同社全体の営業利益の23%を占めています。営業利益率とは、その本業の事業でどれだけ効率的に利益を稼ぎ出せているかを測る指標です。
「物販は儲かる」とよくいわれますが、それでも、平均の利益率は15%~30%程度だそうです。ディズニーの物販ビジネスの利益率の高さが目立ちます。
同社にとって、特にライセンスビジネスは、ほとんどコストをかけずに安定した収入を得ることができるため、有望な収益モデルになっています。ちなみに、IPビジネスとは、キャラクターなどのコンテンツ、つまり「知的財産」(Intellectual Property)を生かしてライセンス料などの利益を得るビジネスのこと。
当然、Netflix社も、ウォルト・ディズニー・カンパニーのこうしたグッズ関連ビジネスを詳細に研究していることでしょう。
アメリカ人は1日平均約3時間、動画を楽しんでいる!
では、最後に、ビジネス誌『フォーブス』のデータにもとづき、米国の動画配信(ストリーミング)マーケットに関するいくつかの特徴を確認しておきましょう。第1に、アメリカ人は1日平均3時間9分を動画に費やしています。動画配信が、アメリカ人の日常生活に完全に溶け込んでいることが理解できます。
第2に、米国の全世帯の99%が、少なくとも1つ以上の動画配信サービスに料金を支払って視聴しています。Netflix、Amazonプライム・ビデオ、Apple TV+がサービスの上位を占めています。アメリカ社会全体が有料ケーブルテレビのような伝統的なモデルから、顧客の都合に応じて視聴できるオンデマンドのストリーミングサービスに転換していることが理解できます。そして、米国人はストリーミング・サービスに月平均46ドル(6,900円)を支払っています。
世界全体のNetflix会員数は2.6億人以上!
第3に、Netflixは、2.6億人(2023年末)の加入者を抱え、最も加入者の多い動画ストリーミングサービスとして圧倒的な存在感を示しています。世界の地域別でみると、主要マーケットは米国とカナダであり、加入者数は8,013万人で、全加入者の31%近くを占めています。欧州、中東、アフリカの加入者数は 8,881万人で約34%。ラテンアメリカとメキシコでは 4,600万人、そしてアジア太平洋地域では4,530万人が加入しています。
2020年に、Netflix社は、日本の有料会員数が500万人を突破したと発表しています。そうした多数のファンは、「Netflix Houses」が、できるだけ早く、日本でも出店されることを待ち望んでいることでしょう。
Netflix映画『シティーハンター』、一見の価値大いにあり!
ところで、2024年4月25日、Netflixアクションコメディ映画『シティーハンター』(16+:鑑賞推奨年齢16才以上)が全世界で独占配信されました。漫画家・北条司氏の代表作、大人気アニメ作品「シティーハンター」を元に、舞台を「令和の新宿」に移して、名優・鈴木亮平氏主演で実写化されたものです。エンディングテーマ曲に起用されたTM NETWORK「Get Wild Continual」も幅広い世代を通して話題になっています。
映画『シティーハンター』予告編 – Netflix(鑑賞推奨年齢16才以上)
東京・新宿を拠点に、裏社会のあらゆるトラブルを解決する超一流の始末屋/スイーパー・冴羽 獠(さえばりょう、鈴木亮平氏)と、ヒロインの槇村香(まきむらかおり、森田望智(みさと)氏)が、唯一無二の「バディ」(相棒)になっていく「はじまりの物語」が描かれています。
北条氏によるオリジナル漫画は、1985年〜91年に『週刊少年ジャンプ』(集英社刊)で連載され、現在までに単行本の累計発行部数が5,000万部を突破した大人気作品です。
映画の見どころは、やはり主人公・冴羽 獠をユーモアたっぷり、そしてスタイリッシュに演じた鈴木亮平氏の「おバカッコいい!」名演技です。映画全体を通して、アクション、映像はかなりハイレベルに仕上がっており、Netflixが潤沢に予算を投入したことが容易に理解できます。全体的に爽快なスピード感にあふれ、全編の1時間44分があっという間に過ぎます。
ちなみに、日本の地上波テレビ局のゴールデンタイム(午後7時~10時)の1時間ドラマの製作費が3,000万円~4,000万円といわれています。それに対して、Netflixの人気ドラマ1エピソードの製作費が6億円~7億円などと報じられています。「20倍」です。Netflixの人気純愛ドラマ「First Love 初恋」の製作費は1話あたり2億円とも噂されました。Netflix全体だと、製作費は2.5兆円に及ぶとされます。Netflixのレベルの高いオリジナル作品の背後には、2.6億人をこえる膨大な加入者収入を基礎とする、こうした圧倒的な製作予算が存在します。
映画『シティーハンター』は、鑑賞後に「さすがNetflix、今回もいい作品をありがとう!」と爽快な気持ちにさせてくれる作品です。そして、早く「続編」が見たいと期待がふくらみます。未見の方は、ぜひご覧ください!