マーケティング最前線!

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なぜ、「最強」スターバックスは「再創造」を目指すのか?

2023.06.01

 創業者ハワード・シュルツ氏がCEOを退任!

世界最大のコーヒーチェーン「スターバックス」(米ワシントン州シアトルを本拠)の(創業者兼)暫定最高経営責任者(CEO)のハワード・シュルツ(Howard Schultz)氏が、2023年3月20日付けで退任し、ラクスマン・ナラシムハン(Laxman Narasimhan)氏が正式にCEO/取締役に就きました。スターバックスの「新時代」の始まりです。(なお、日本法人スターバックス コーヒー ジャパンは、2014年、米国本社の完全子会社になりました)

ナラシムハン氏は日用品メーカーの英レキット・ベンキーザー・グループの元CEOで、その前は米飲食料品メーカー、ペプシコの経営幹部でした。

 スタバが「再創造」計画を公表!

そのスターバックス社が、昨年(2022年)9月13日に米国ワシントン州シアトルで開催された「投資家デー」(Investor Day)で、「再創造」(Reinvention)への「ロードマップ」(計画)を公表しました。

米国のコーヒー産業は年間450億ドル以上(約6兆円)の規模を誇り、スターバックスとダンキン(DUNKIN’)が店舗数で2大コーヒーショップチェーンとなっています。 

「スターバックス」のシェアは40%で第1位

マーケットシェアを見ると、第1位の「スターバックス」が40%、第2のドーナツとコーヒーが楽しめる「ダンキン」は26%程度。また、スターバックスは米国内に約15,000店舗、ダンキンは約9,600店舗を展開しています(2020年現在)。

これをみても、スターバックスは「最強のカフェチェーン」であることがわかります。

「最強」と表現されるスターバックスにとって、「改革」という意味がある「Reinvention」の日本語訳は、「再創造」のほう相応しいのではないかと思います。

 では、現在、「最強」のスターバックスが、なぜ再創造を目指す必要があるのでしょうか。簡単にいえば、それは、経営環境、そして顧客の嗜好が常に変化しているからです。「有為転変」(ういてんぺん)、つまり、「経営環境が変化し続ける」のがビジネスの現実です。それに、積極的に対応していくためです。

  カフェビジネスにもやがて破壊的企業が現れる?

スターバックスが最大のマーケットシェアを現在享受しているとしても、それに胡座(あぐら)をかいて「再創造」をおこたれば、「ディスラプター」(disruptor)と呼ばれる、「破壊」をもたらす新しい企業が出現し、いつかその立場を追われるかもしれません。

かつて米国で、最大手DVDレンタル・チェーンだった「ブロックバスター」(Blockbuster)社も、「最強」でありながら経営破綻に陥りました。ストリーミング(動画配信)の時代に乗り遅れたからです。そのブロックバスター社に対して、(創造的)破壊企業として現れたのが、動画配信有力企業の「ネットフリックス」(Netflix)社です。

 現在「最強」のネットフリックスにも破壊的企業がしのびよる?

しかし、現在、ストリーミング業界第1位のネットフリックス社でさえ、うかうかしていられません。「Amazonプライム・ビデオ」「Disney+」などのライバル社が、ネットフリックスの牙城を脅かしはじめています。

スターバックスは「最強」であるからこそ、「再創造」が必要なのです。言い換えれば、「最強」であるうちに「再創造」を行わなければならないのです。強力なディスラプターが出現しないうちに・・・

 「サード・ウェーブ・コーヒー」は破壊的企業か?

実際、(カリフォルニア州)サンフランシスコのベイエリア発の「ブルー・ボトル・コーヒー」(Blue Bottle Coffee)、(イリノイ州)シカゴ発の「インテリジェンシア」(Intelligentsia)、(オレゴン州)ポートランドの「ストンプタウンコーヒー」(Stumptown Coffee Roasters)といった、いわゆる「サード・ウェーブ・コーヒー」(third wave of coffee)と呼ばれる企業もプレゼンス(存在感)を示してきています。

 第3のウェーブということは、第1と第2があります。「ファースト・ウェーブ」は、急速にアメリカの家庭に広まったインスタントコーヒーなど「手軽さ」を重視した風潮、「セカンド・ウェーブ」は、スターバックスなど「コーヒーの風味」を重視するトレンドです。

  サード・ウェーブはコーヒー本来の価値を重視

そして、「アメリカのコーヒーブーム第3の波」、つまり「サード・ウェーブ・コーヒー」とは、「コーヒー本来の価値を重視する流れ」を指します。具体的にいえば、コーヒーを単なる生活必需飲料として考えるのではなく、ワインのような芸術性を兼ね備えた高品質な食品・飲料として扱うことを特徴とします。コーヒーの栽培、収穫、生産処理、選別を含むすべての工程を適正に管理して顧客に提供することが重視されます。

 こうしたサード・ウェーブ企業が、将来、スターバックスに対するディスラプターとして成長する可能性はゼロだとは断言できません。

  70%のスタバの顧客は「コールドドリンク」を購入!

では、最強の米国スターバックスは、「再創造」プランでどのように生まれ変わろうとしているのでしょうか?それを知る前提として、下記のように、スターバックスの顧客の現況を把握しておくことが大切です。

1.  70%の顧客が「冷たい飲み物」(cold beverage)を求めている。

2.  50%のオーダーがドライブスルーで生まれている。

3.  25%がモバイルオーダーである。

4.  20%(前年比)の割合でデリバリーが伸びている。

 ちなみに、ある調査によると、米国スターバックスにおける人気メニューランキングは次のとおりです。やはり、コールド・ドリンクが上位を占めています。

第1位  Iced Brown Sugar Oat Milk Shaken Espresso 

第2位  Pumpkin Cream Cold Brew

第3位  Iced Caramel Macchiato

第4位  Pumpkin Spice Latte

第5位  Caramel Frappuccino

 では、スターバックスの「再創造」プランの概要を紹介しましょう。

 カスタマイズの要望が劇的に増加!

第1が、コールド・ドリンクとカスタマイズの注文への対応です。顧客の嗜好が、年間を通じて、温かい飲み物から冷たいドリンクにシフトしています。特に、夏場は、注文される飲み物の80%近くが冷たいドリンクです。

 また、近年はカスタマイズの要望が急激に増えており、エスプレッソショットの追加、フレーバーの追加、植物性ミルクや冷たいフォーム(ミルクの泡)を選ぶ顧客が増えているなど、カスタマイズの内容が複雑化しています。

呪文のようなオーダーにも迅速に対応!

ここで、ためしに、インターネットで検索してみると、次のような「呪文」オーダーがあるという一般の情報にたどりつきました。

「グランデ・チョコレートチップ・エクストラコーヒー・ノンファットミルク・キャラメルフラペチーノ・ウィズ・チョコレートソース」

 オーダーする顧客も大変ですが、オーダーを受ける(慣れていない)スタッフもたいへんではないかと思います。

 こうした顧客の要望にスピーディーに対応するため、スターバックスは自社で開発した新型抽出マシンを導入し、わずか「30秒」で淹れたてのコーヒーを提供することが可能になっています。

 ピックアップストア、デリバリー専用など店舗の多様化が進む!

第2は、北米(「アメリカ」+「カナダ」)での4.5億ドル(590億円)の追加投資です。この投資には、店舗スタッフの仕事の効率化と複雑さの軽減を可能にする新しい設備の導入が含まれます。また、2025年までに米国で2,000店舗の純増を計画しており、カフェ、ピックアップストア、ドライブスルー専用、デリバリー専用など、店舗ポートフォリオ(構成)を多様化し、顧客にさらに便利さを提供する計画です。

 「サード・プレイス」は「物理的空間」だけでなく「顧客体験」も!

スターバックス社は、そのミッションとして、「サードプレイス」(Third Place)を提供することを提唱してきました。このサードプレイスとは、「自宅」でも「職場」でもない、「第3のリラックスできる場所」のことです。しかし、このサードプレイスは、店舗などの「物理的空間」に限られるわけではなく、「顧客体験」も含まれます。顧客への様々なチャネル(経路)の整備や便利さの提供も「サードプレイス」の進化として位置付けられています。

「Z世代」が望む「スピード感」あるオペレーション

第3に、(上記2に関連しますが)「スピード重視」です。スターバックスの顧客の大半は、ミレニアル世代とZ世代。実際、Z世代は「スターバックスに対するブランド愛が最も高い」世代だといわれています。この世代は、カスタマイズを好みます。さらに、「タイムパフォーマンス」(略して「タイパ」)を重視します。したがって、ブランド愛が強い顧客のカスタマイズ要望に応えるために、スピード感のあるオペレーション(店舗運営)を追求する必要があるのです。

 さあ、「新時代」における「最強」スターバックスの「再創造」に注目です!


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